世界一&純情
□私に嫉妬なんかするんじゃない
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やっと仕事が終わって帰りに高野と一階のロビーでばったり遭遇。なぜか飲みに行くことになり、私のお気に入りのバーにやってきた。
私は甘いカクテルをユラユラとさせながら高野を見る。
「そういや高野。律くんが10年前、アンタと付き合ってた図書室の子だったのを私に言わなかったわね」
「俺だって知らなかったんだよ。木佐との話しで『図書室の本を全部読んでた』ってのを聞いて。…なんだ、お前覚えてたのか」
一口お酒を飲んで答えた高野を軽く叩いた。
「覚えてるも何も、アンタが腑抜けになった原因の一つでしょーが!!……あの子、アンタが誰か分かってるの?」
「忘れてやがったから名乗ってやったさ」
「……なにそんなに怒ってるのよ」
「そりゃそうだろ。あいつは俺の顔すら忘れてたんだぞ」
「アンタだって律くんの事分からなかったでしょうよ」
私も始めに見た時は分からなかったもの。なんか随分擦れたんだなと言うのは分かったけど。
「名字も違ければ雰囲気が違ってた。昔はもっと可愛げがあったからな」
10年前を思い出している高野はうっすら笑みを浮かべている。高野の中の律くんは消えていない。
「そういうアンタは昔はもっと寡黙だったわ……。律くん、驚いただろうなぁ。あの“嵯峨”がこーんな暴君になってただなんて」
私を睨みつける高野だがそんなもん恐くてコイツと仕事なんてやってらんないわ。
「高橋、殴っていいか?」
「あら、それはお断りするわよ。…でも、高野は平気なの?律くんと仕事なんて」
「仕事とプライベートはちゃんと分けてるさ」
「その割にはこの間どす黒いオーラ出してたじゃない。素直になりなさいよ、律くんが私に笑ってくれたのが嫌だったんでしょ」
「……別に」
間がありすぎて否定しきれてないでしょーが。視線も合わせない高野に私は一息つく。
「大学の時にも言ったけど、私は高野の気持ちを否定しないし、それを捨てろとも言わない。10年たった今会うなんてある意味奇跡よ。だから、今度は高野が幸せになれるのを祈ってる」
「夏希…」
目を見張る高野が久しぶりに私の名前を呼んだのでフフッと笑う。
「これでもアンタを友達って思ってるんだから。頑張りなさいよ“嵯峨”」
旧姓で呼んでやれば、高野はニッと笑いあぁと答えた。
どうか…、彼らの想いが通じますように。
20110711