世界一&純情

□思い出すのはアイツの微笑
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律くんを見ていると誰かを思い出す気がするのに、それが誰か思い出せない。
あの茶髪と緑の瞳は何か印象があるのにな……。

「小野寺律くんねー」

「小野寺がなんだって?」

休憩スペースで考えていれば、そこに高野が入ってきた。

「なんだ、高野じゃん。なに?部決会議終わったの?」

「まぁな。で、小野寺がどうかしたか」

当然の様に私の隣に座って煙草を吹かす高野に私は視線を向けた。

「んー、いや、どっかで会った事あるような気がしてさ。どこだったかなーと思い出そうとしてたんだけどー」

「思い出せないなら、大した事ねぇんだろ」

「そうなんだけどさー。モヤモヤしちゃうじゃん」

「はっ、そんな事してる暇があるなら仕事しろよ」

煙草の煙をフーッと吐いたコイツの足を軽く小突けば、なんだよと眉間に皺を寄せた。

「うっさいな。しますよ、しますー」

私は立ち上がって、テーブルと高野の隙間を横切って休憩スペースから出た。
全く、本馬鹿のクセになんなのよ……って待てよ本?
本……本……あぁ、そうだ!!!
高校の時に高野と付き合ってた後輩の子だ!!直接話した事はないけど、図書室でよく二人でいるのを見かけた事がある。


当時の私から見た彼らは、互いに想いあってるように見えた。
高野はあんまり感情を表に出さなかったから分かりづらかったが、相手の子はメチャクチャ高野が好きなんだって見て分かった。
でも、しばらくしてから高野が一人でいるのに気づいて、どうしたのか聞いてみたが知らないと一言言われただけで。
何度か聞いてみても詳しく話してはくれなかった。あの頃、高野の家もゴタゴタしてたし私もあんまり深くは聞けなかったのでそのままそっとしておく事にした。



まぁ、それが後々めんどくさい事になるんだけど…。
まさか、あの後輩君が律くんだったとは……そうだよ、高野から稀に名前を聞いてたじゃんか!!私はなんでそれすら忘れてたんだ!!!!
律くんがここに、しかも高野の部下だなんてなんの因果なのか。

10年……。
短いようで長かったが高野の時間はあの頃で止まったままだ。
律くんが彼を変えてくれるか分からないけどキッカケになってくれる筈だ。
私が口出しするのもなんだからしばらくは見守るが、あの馬鹿が何か言い出すかも知れない。アイツに律くんの事バレないようにしとかないとな…。



あれ?私なんでこんなに高野の事で悩まなければいけないんだろう。



高橋夏希、27歳。
腐れ縁的な友人(♂)の恋の行方が心配になり、母親みたいな心情になりつつあります。



20110709

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