世界一&純情

□恋におちたら 1
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【私を巻き込むのはやめてくれ】


井坂さんの命令で明日行われる宇佐見先生の受賞記念パーティーの手伝いに来たのに、あのアホ専務(本人には言えない)がいないので探しに向かう。


なんか、宇佐見先生を案内するとかなんとか言ってたけど半分はサボりたいだけだろ。
ってか宇佐見先生と知り合いだと聞いた時は驚いたが……宇佐見先生めちゃくちゃイヤな顔をしてたから相当井坂さんで苦労したんだな。

私はツカツカとヒールを響かせながら歩き、角を曲がったエレベーターホールに目的の人物を見つけた。
しかし、彼は眼鏡をかけた人となんだか話中で声かけずらいじゃないか。

「秋彦の……でいま……」

「秋彦と…?」

楽しそうな井坂さんと怪訝な顔をしている人は知り合いっぽい。私は目を細目ながらそこまでゆっくり歩く。

「井坂専務、見つけましたよ」

声をかければ井坂さん達がこちらを振り返る。井坂さんは私だと気づくとヘラっと笑った。

「よお高橋!!なにしてんだ?」

暢気な井坂さんの言葉に私の口がヒクリと強張る。

「何ってあなたを探しに来たに決まってるでしょう!!こっちは校了明けでゆっくりしたいのにあなたに言われてワザワザここまで手伝いに来たんですから、ちゃっちゃと終わらせたいんです!!仕事して下さい!!」

「はいはい、ちゃんと仕事してますよー」

ヘラヘラと笑う井坂さんに堪忍袋が切れそうになる。
だからこの人はイヤなのよ。仕事をするまでのやる気のなさと人間性に問題あるんだから!!

「…してるように見えないから言ってるんですが」

「してるぜー?気難しい宇佐見大先生の機嫌とり」

「はぁ、もういいです。仕事に戻ります」

もう言っても無駄だと思い、私は踵を返す。後で朝比奈さんにこっぴどく怒られればいいんだ。
歩き出そうとすれば腕を捕まれ、振り返れば井坂さんが私の腕を握っていた。

「あぁ、そう、紹介しとく。コイツは俺の幼なじみの宇佐見春彦、宇佐見大先生の兄貴な。春彦、ウチの編集者で高橋夏希」

宇佐見先生のお兄さん?
なんか似てないような…。

私は常に持っている名刺ケースから一枚取り出し、宇佐見さんに差し出す。

「はじめまして、高橋夏希です。…宇佐見さんもこの人の幼なじみなんてご苦労様です」

「もう慣れた。君もだいぶ苦労していそうだな」

宇佐見さんは私の名刺を受け取り、自分の名刺を差し出してきたのでそれを頂戴した。

「それはもう!!苦労どころかむしろ迷惑です」

「なんだ、その言い方は!!俺はお前の上司だぞ。偉いんだぞ!!」

井坂さんが上司だと言って怒るが私はそれはもう爽やかに笑ってやった。

「偉いなら、寝坊せずサボらず、朝比奈さんに怒られないで真面目に仕事をして尊敬されるようになって下さいね。そうしたら少しは偉いんだと認識させて頂きます。あと、私も忙しいので巻き込まないで下さい。
何か反論ありますか?えらーい井坂専務?」

「うぅ…」

言葉に詰まる時点で自分のしてること分かってるじゃないですか。ハァとため息をはいていると宇佐見さんの視線を感じて見れば、彼は驚いたのか僅かに目を見開いていた。

「龍一郎にここまで言うのを見たのは朝比奈以来だな」

「朝比奈さん仕込みなので。言わないとこの方は仕事してくれませんし」

私がじとりと見れば井坂さんは両手をあげてため息をはいた。

「分かった、分かった。仕事に戻るよ」

「そうして下さい。あぁ…お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありませんでした」

宇佐見さんに一礼して謝れば彼は目を細めるだけ。

「いや、気にする事はない」

「ありがとうございます。それではこれで……。ほら行きますよ、井坂さん」

グイグイと腕を引っ張りながら歩き出せば、井坂さんが仕方なさそうについてくる。

「じゃあまたな、春彦」

宇佐見さんに言っていたので私も軽くお辞儀をして離れる。

「なぁ、高橋」

「なんですか?文句は聞きませんよ」

「お前、秋彦と春彦が似てないって思っただろ」

ピタリと歩みを止めてしまった。

「まぁ、思いましたけど…」

「あいつら、母親が違うんだ」

「えっ…マジですか」

母親が違うって異母兄弟って事よね。確かにそれなら似てないのも分かる。

「ホント。春彦は愛人の、秋彦は本妻の子。色々あって今も昔もあいつらは仲が悪くてな」

俺も大変なんだよねと笑う井坂さんだが、何か裏がありそうで気味が悪い。

「…それをなんで私に言うんですか」

「なんとなく?」

この人は…(イラッ)
ニヤニヤ笑う井坂さんを放り出して私は再び歩き出す。

私を巻き込むのは止めて欲しい!!

そう言えば、美咲はっいたのかしら?
後から来るって言ってたけど…。あとでメールしておこう。


20110702
20120405 加筆修正

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