世界一&純情

□我が従弟の恋よ
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約束の時間10分前。
待ち合わせの駅前広場に慌てて向かえば、相手はすでにそこにいた。

「美咲!!」

「夏希姉ちゃん!!ひっさしぶり!!」

私の従弟で大学生の美咲。
やや童顔で年相応にみえず、可愛い顔をしている……が、見た目とは裏腹に結構喜怒哀楽は激しい。

「うん久しぶり。それより待たせてごめんね。急に仕事が入っちゃって」

「ううん、平気。今来た所だし」

美咲は首を振って私を見てきたのでありがとうと返す。

「よし、じゃあ行こうか」

「うん!!」

二人で駅前を歩き出し、店に向かった。


駅からあんまり離れてないビルに入っているレストランに入り、二人でいくつかの料理を頼む。
私はビールを飲んでから向かいに座る美咲を見た。

「美咲、最近どう?向こうのお家で何か不自由してない?」

「そんなことないよ!!ウサギさ…あっ、居候させてもらってる人には良くしてもらってるし!!」

彼の兄・孝浩が突然の大阪への転勤で、美咲は孝浩のお友達の家に居候させてもらってるらしい。話によると、孝浩がこっちに帰ってきてからもどうやらそれが続いているとか。あの頃、孝浩からその辺の事で電話とかメールがよく来ていたけど、デッド入稿前でそれをまともに聞いてなかった。今更ながらゴメンね、孝浩。

「そう。ならいいの。孝浩からよく心配メール来てたから」

その言葉に美咲はピクリと反応する。プクリと頬を膨らました美咲はやって来た料理を口に含んだ。

「もう兄ちゃん心配性すぎなんだよ。俺だってもう大学生なんだし」

「しょうがないわよ。大事な大事な弟と離れて過ごすなんて殆どなかった訳だし。いいじゃない、心配させとけば」

私はどちらかと言えば孝浩の気持ちが分かる。私もきっと口を出しちゃうんだろうな。

「でもさ〜、兄ちゃんだって家庭があるんだからそっちを優先させなきゃダメだろ」

「それほど美咲が大好きなんでしょ。真奈美さんだって孝浩に感化されて今じゃ美咲大好きらしいじゃない」

他愛ない話をしてご飯食べていて気づいたが、美咲はどうやら居候先の人が好きみたいだ。
話を聞いていると、その人の文句ばかり言っているが決して悪口は言わない。
美咲がこんなに話す人なんて珍しいくらいだ。そんな人が現れてくれて私は嬉しくてつい笑ってしまった。

「夏希姉ちゃん?」

首を傾げた美咲に、食事していた手を止める。

「美咲」

「なに?」

「今の生活、楽しい?」

「…うん、楽しいよ。どうしたの、夏希姉ちゃん、今日はなんだか変だ」

私の質問は美咲にはおかしく思ったようだ。一応の返答するが不思議そうにしている美咲の頬っぺたを左右に引っ張ってやる。

「変ですってぇ?こーんな素敵なお姉様に向かっていい度胸ねぇ」

「いひゃい、いひゃいよ、ねーしゃん!!」

ピリリリリッ!!ピリリリリッ!!

グイグイと引っ張っていれば、どこかから携帯の着信が聞こえてきた。

「あら、電話ね」

それに気づいた美咲がポケットに手をツッコミ携帯を取り出す。

「げっ、ウサギさん!?」

着信相手が誰か分かると美咲は慌てて通話ボタンを押した。

「もしもしウサギさん?……えっ?前から言ってただろ、従姉妹の姉ちゃんと食事しに行くって……はぁ?聞いてないだと?いーや、俺は確かに言ったからな!!ウサギさん、仕事しながらだったからちゃんと聞いてなかったんだろ!!」

驚いた。
他人にあんなに声を荒げてる美咲なんて本当に珍しい。
他人を一際気にする美咲がこんな風に話す居候先の人物とはどんな人物なのだろう。

「はぁ?今?今は駅前のレストランでご飯食べ終わった所で……っていいよ来なくて、ちょっ、ウサギさん!?」

携帯を凝視した美咲は大きいため息を吐いて携帯を閉じた。
その表情はゲッソリしている。

「どうしたの?」

「居候先の人が車で迎えに行くって聞かなくて……」

「あらいいじゃない。親切な方ね」

「いやいや、仕事の途中なのに来てもらうなんて…」

「その人が来たいって言ったんだったら、それはその人の意思よ。美咲は甘えなさい」

「でも……」

「つべこべ言わない!!…来るんなら表で待ってようか」

私は立ち上がるついでに伝票を持つ。

「あ、姉ちゃん、半分出すよ」

私についで立った美咲が財布を出そうとしたので、その手をペシリと叩く。

「いいわよ、別に。年下は年上に奢られてなさい」

それでもごちゃごちゃ言う美咲の頭をグシャグシャとかき混ぜてから会計を済ます。
外に出れば夜の帳が落ちていて、街灯やビルの明かりが光っていた。冬の寒さが今まで暖房の効いた場所にいたこの体に堪える。

「いやぁ、寒さが身に染みるわねぇ」

ビル側で二人揃って並んで立ち、私はマフラーを巻いて首を必死に隠していると美咲が隣で飄々としていた。

「姉ちゃん、寒いの苦手だもんな」

「まぁね。歳を重ねる毎に酷くなってきてねー」

本当はそんな理由じゃない。
小さい頃から冬は嫌いだ。
冬はイヤな思い出しかないから……私はそれを吹っ切るように話を続ける。
話は途切れる事なくて、待っている間は寒さを忘れる事が幾分できた。

「それでね…」

パッパー!!

車のクラクションに視線を向ければ真っ赤なスポーツカーが止まっていた。
前に作家さんの資料集めで車のパンフレットで見た事があるけどアレはかなり高いわよ。一般人はなかなか手が出せないくらいのもの。



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