世界一&純情

□甘い時間は後にして
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校了明けの本日はめでたくも仕事が早く終わったから久々に本屋に立ち寄った。

駅前にある大きな本屋って色んな本が揃っていて便利なのよね。
作家さんの資料集めから趣味の本まであらかたここで済ましてるし。
文芸コーナーで見つけた宇佐見さんの新刊と他出版の小説が目に入り、手に取って会計の列に並ぶ。手に持つ本を見てワクワクする。本を見る前はどんな本なんだろう、どんな内容なんだろうと楽しみで仕方ない。…うん、校了明けだからゆっくり読めそう。

「次の方どうぞー」

呼ばれて進んだ先にはこれまたイケメン君が待っていた。

うっわー、キラキラ王子だ。

思わず凝視してしまう程、彼はかっこよくて困る。
以前からいるのは知っていた。男の人で少女漫画の担当でよく女の子に漫画を紹介してるのを見かけたし。

「いらっしゃいませ。カバーはお掛けしますか?」

「ええ、お願いします」

「かしこまりました」

ニコッと笑う彼のネームプレートには「雪名」と書かれていた。またなんか似合うよなぁ。
こんな風に笑われたら世間の女の子達はもうキュンキュンものだ。私は少女漫画担当のせいかキラキラには慣れてしまっていてときめく事もないけど…。
あれっ、ちょっと待てよ?27の女がそんなんでいいのか!?ここはキュンッとしなきゃいけないんじゃないのか!?ああ、少女漫画に毒されてるな。いや、漫画は好きだけどね。恋すらしなくなっては女として終わりじゃないか。
悲しい考えに到達して肩を落としていると、カバーをかけてくれた彼はこれまた素晴らしい笑顔で私に本を詰めた袋を渡してくれる。

「ありがとうございました。またお越しください」

私はありがとうと言って袋を貰い本屋から出る。
本屋のイケメン王子か……何かネタにできるかしらね。
ちゃっかり仕事のネタにできるかと考えながらマンションに向かったのだった。



次の日。
担当作家の資料集めに昨日と同じ本屋に来ていた。
いくつか見繕って漫画コーナーに向かうと、なんだか華やかなコーナーがある。近づいて行って見ればそこはまたキラキラした特集コーナーで…。

「わー…派手」

並んでるコミックは全て丸川の少女漫画でよく見たらこれは木佐さんが担当してる本。確か最新のヤツは重版された筈だ。

「その本、面白いですよ」

声が聞こえたので振り向けば、昨日のキラキラ王子。

「えっ、」

「俺、発売日の朝イチで読んだんですけど、思わず泣いちゃいました」

泣くって……キラキラ王子はニコッとこれまたキラキラ度が増す笑みを向けてきた。この子のキラキラ度は破壊力は半端ないわ。

「そうなの…。少女漫画好きなの?」

「はい。このキラキラな感じがたまんないですよね!!」

いや、あなたがキラキラしてるから。
王子は私を見て首を軽く傾げる。

「アレ?昨日本を買われてましたよね。会計したの覚えてますよ」

「確かに買ったけど…」

「やっぱり!!よく買いに来られますよね。品出ししてる時に、たくさん抱えて歩かれてるの見てたので覚えてますよ。本が好きなんだなーって」

うわっ、見られてたなんてなんだか恥ずかしいわ///私はそれを誤魔化すように笑った。

「あー、ここ品揃えいいからついつい買っちゃうんだよね」

「アハハ、でもそれ分かりますよ。我慢しようとしても出来なかったり」

「そうなの!!部屋にも今山積みになっててね」

「それも分かる気がします。俺の恋人の家にもたくさんあります」

そう言って笑った王子の笑みは本当に大好きなんだと表している。

「へぇ、恋人さんも本好きなんだ」

「はい、漫画の編集をしてる人なんで忙しすぎて読めないみたいなんですけど…」

おっと、同業者さんか。
確かにデッド入稿前なんて全く読めないしねー。分かるよ、見たこともない彼女さん。

「君の彼女さんならきっと凄く可愛いだろうね」

私の問いに王子は一瞬考える様に目を閉じたが、目を開くとそりゃぁもう満面の笑顔だ。

「とても可愛いですよvv 歳上なんですけど、いつ見ても照れて顔を赤くするんです」

話を聞いてるだけで、彼が彼女さんを好きを通り越して大好きなのがよく分かる。ってか今日彼とまともに話した私はなぜ彼の彼女の素晴らしさを説かれているんだろうか。いや、王子の素敵すぎる笑顔が見れていいけどさ。

「それでこの間なんて…ってあっ、木佐さん!!」

木佐さん?
王子が私の頭の上を通り抜けた後ろを見ているので振り返れば、そこには確かに木佐さんがいた。

「あれ、夏希ちゃん」

「木佐さんだ。お疲れ様です」

「お疲れーって、あれ?夏希ちゃんと雪名って知り合いなの?」

こちらに来た木佐さんは私と王子を交互に見る。

「いや、たまたま話してただけです」

「木佐さん、お知り合いなんですか?」

「俺と同じ編集者だよ」

雪名君の問いに木佐さんが答えると、雪名君はああと頷く。

「どうも丸川書店 月刊オパール担当の高橋夏希と言います」

「あ、ここの少女漫画担当の雪名皇です」

名刺を差し出せば、王子はご丁寧に挨拶をしてきた。
名刺交換をして下の名前を知ったが、『皇』ってまたキラキラした名前だ。

「雪名君は木佐さんと知り合いなんだ」

「はい、こいびt「ああああああああ!!!!お前はどうしてそう普通に喋ろうとするんだよ!?」」

雪名君が答えを言おうとした瞬間に木佐さんが声を張って遮ったが、なんとなく聞こえた。
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