創作短編

Dandelion is
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いつもどおり水やりをしようと霧吹きを片手にタンポポに近づいた。
もう花が咲けば立派なタンポポ、というほどに成長していて、出会って数日しかたっていないが、愛着も湧いてきたころだった。
そしてこの日も枯れていないか一応確認をしようとしていた。
そこで昨日と明らかに違うところに気がつく。

「・・・ん?」


なんかいる。

人型の何かが葉を枕にするようにして目をつむっていた。
凹凸のある部分は顔を形作っている。

これは、なんだ?

じっくりと見れば見るほどそれは人に見えてくる。
大きさは私の親指ほどしかなかったが、手、足、体、頭、と思われる部分もあった。
天使のような愛らしい顔に、フリルのついた可愛らしいドレスを着て、長い金髪はフワフワとしている。
恐らく、女の子、なのだろう。

一瞬精巧なフィギュアかと思ったが、小さく呼吸をするたびにその体も上下しているのは、生きている証拠だろう。


なにこれ。


未知の生物との遭遇に言葉も出ない。
無意識のうちに止めていた息が苦しく、心臓も早鐘を打っている。
落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせるが意味がなかった。

「(いいか、優、お前は寝惚けているんだ。前も寝相が悪くて起きたらブリッジ、なん てことがあったじゃないか。
 もう少しだけ待ってみよう、そしたら多分ベッドから落ちるから、その衝撃でお前は目が覚める)」

つらつらとそう思ってギリギリの平静を保っていたが、その女の子の目が開いたところで完全に思考が停止した。
その子は、爪楊枝のような腕を使ってゆっくり体を起こすと、首を回して周りを見渡した。
そして頭上の私と目があった。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

お互いに無言。
驚愕のために全く声帯を震わせることのできない私を見上げる女の子の唇が、ゆっくりと開いた。

「なに突っ立ってんの。」

天使のような顔して口調は氷のように厳しかった。

「・・・・・・・・・・・・ほんとすいません、どちら様ですか」
「・・・なにあんた馬鹿?」
「友達から残念な頭だねってよく言われます」
「でしょうね」

・・・・・・えー?なんだこの子、ていうかこの生物。ていうか生物?

「まあいいわ、世話してもらってるから教えてあげる」

なにこの上目線。
ていうかこんなん世話した覚えがないよ。




「わたしはこのタンポポの妖精よ」








「さあてさっさとご飯食べて学校行くかな!!」
「なにいきなりテンション上げてんの」
「1時間目から数学とかキッツ!
 学校いって予習しよ!」

外国アニメばりに周りのプリントやら何やらを巻き上げながら音速で着替え、部屋から飛び出てリビングに用意されていたトーストをくわえて家からダッシュで1階まで逃げた。
途中でかち合ったゴミ捨てから帰ってきた隣のおばさんの顔色が恐怖に染まっていたからからそうとう鬼気迫った顔をしていたのだろう。
マンションの壁に手をついて、肩で息をしながら思わず呟いた。

「どんなメルヘンだ・・・ッ!」


これが人生初・タンポポの妖精との出会い。
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