創作短編

ゆうれい
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現実主義者というわけではないけれど、UFOとか、謎の地球外生命体とか、そんな迷信じみた存在を僕は手放しで信じていない。
それは、明快に肯定できる根拠もないし、かといって否定できるほどの要素もあるわけでもないからだ。

でも、僕は信じるとかそんなんじゃなく、一つ知っていることがある。

それは、幽霊はこの世に存在しているということ。




ゆうれい




家の近所に小さな神社がある。
世間では少子化が進んでいるけど、今でも通りかかったときにその神社で子どもが遊んでいるのを見かける。
そして神社の猫の額ほどの敷地内には、公民館があった。
二階建てでとても古かったけど、水道や電気などの最低限の設備は整っていて、神社でお祭りとか新年の餅つきとか、何かしらの行事があるときにその公民館は重宝されていた。

幽霊は、この公民館にいた。
薄汚れている二階の窓辺からずっと境内を見下ろしているのだ。
不思議なことに、その幽霊が姿を見せるのはお祭りとか人がたくさん集まる行事のときだけだった。

そもそも、僕自身がいつあの幽霊を「幽霊」と認識したのかよく覚えていない。
記憶をたどれば、初めてあの幽霊を見たのは小学校にあがる前だったと思う。
一目みたときはとても綺麗な女の人だと思った。
二十歳くらいで、長い黒髪は艶めいていて。
二階の部屋には電気はついていなかったのに、その人の姿は浮き上がるように鮮明で、微笑んでいる優しげな表情に見とれてしまった。

僕にその幽霊が見えだしたのはその日からで、いつ見ても、何年経っても姿が変わらないその人を、僕はただ単純に「幽霊だ」と思った。
いま思えば単細胞な話だと自分が恥ずかしくなる。



両親に、公民館の幽霊について聞いた事がある。
「公民館に幽霊がいるの知ってる?」と。
両親はキョトンとして答えた。

「ああ、知ってるぞ。」
「それがどうかしたの?」

驚いた。両親にあの幽霊が見えていたことにも驚いたが、さも当たり前と受け止めていることに驚いた。

「ここらで知らない人のほうが少ないんじゃないか?」
「私はあの人に手を振ってもらったこともあるわ」

両親ともにこの地域の出身だ。
二人は滑らかにあの幽霊について話しはじめた。
曰く、「俺がガキのころにはもういたなあ」、「名前までは知らないのよねえ」、「俺は幽霊さんって呼んでた」、「女の子達の間じゃ微笑みさんって呼んでたわ」、「微笑みさん?なんだそれ」、「いっつも笑ってるじゃないあの人」、「ああなるほどな」。
息子そっちのけだった。

近所の人にも、聞いてみた。反応は両親と同じくらいで、あの幽霊のことを座敷童という人もいたが、誰一人として「生身の人間」という人はいなかった。
やっぱりあの人は、幽霊か幽霊に近いモノらしい。



神社に足を向けた。
あと一週間ほどでまた夏祭りがくる。
今年もあの幽霊は二階のまどから祭りを楽しむ人々を見下ろすんだろう。

幽霊かもしれないあの人が、なぜこの世に残ったままなのか僕は知らない。
分かっていることは一つだけ。

あの幽霊はいつも通りに微笑むということ。





end.
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