創作短編

少年流似非未来推測論
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米噛みに流れる汗をまた制服の袖で拭う。
米噛みを拭った二の腕だけでなく、シャツが体に張り付くほど全身が汗ばんでいる。
生暖かいのが酷く不快だが、それ以上に湿度を多く孕んだこの暑さに体力を消耗するほうがイライラする。
使っていた下敷きで涼を求めて扇いでみても、対して風は送られて来ない。

全開に開けられた窓の外から聴こえる何種類もの蝉の鳴き声。
エンドレスに続いているそれが段々聴覚を麻痺させていく。

「あちぃ・・・・・・・」

カラカラに渇いた喉から搾り出した声も、蝉の大合唱に掻き消されてった。





少年流擬似推測論





夏休み。
青春を謳歌すべき学生達の夢の期間。

我が高校ではその期間中、自主学習をしにわざわざ学校まで来る真面目な生徒達の為に一学年につき一つの教室が自習室として開かれている。(1番の学習場所として最適なのは図書室だろうが、時間が経つにつれて女子達のサロン状態になってしまう。あの甲高い声でくっちゃべってる喧しい空間に居続けるのはごめんだ。)
暑い真夏にクーラーの効いた快適な学習場所を提供してもらえるのは、ものすごく嬉しい。特に俺のようになかなかクーラーを付けさせてもらえない家では。

そして今日も今日とて俺はクーラー目当てで登校した。
教室の鍵を開け職員室から借りたリモコンでクーラーの電源ボタンを押した。

「・・・・・・あ?」

付かない。
いつもならピッという電子音の後で凍えるほどの冷気を吐き出して来るくせに。

もう一度押す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

反応なし。

どうやらクーラーが殉職しやがったらしい。
この連日38度越えの夏の真っ盛りに。

「嘘だろ・・・」

さっきまで締め切られていた空間は独特のむわっと暑い空気に占領されている。
軽くサウナ状態だ。

早速米噛みを一筋の汗が流れた。
そして冒頭に戻る。


「あっちぃ・・・」

持参した麦茶入りのペットボトルに口を付けて煽るが、一滴が唇を濡らしただけで中身は空になった。
普段ならこれで一日持つはずが今日は30分でなくなった。
こんな事なら1リットル持ってくればよかったと、今更ながら舌打ちした。

「あー・・・」

暑い。空気から暑い。
吐いて吸う息も、呼吸させ息苦しい。

「・・・・帰るか」


暑いし、唯一の水分も無くなったし。熱中症になってからでは遅すぎる。

そうと決まれば、と出しただけの筆箱と広げたままひとつも進まなかった英語のワークを閉じて鞄に放り込んだ。
この時間的にも丁度良い。嫌なヤツに会わないですみそうだ。
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