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□2nd.出会い
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「……なんだ?」
最初は何がいるのか分からなかった。ただ何か居る事だけはベンチの上の異物として認識できる程度。
倖貴にざらりと濁った感覚が腹の辺りで燻る。例えるなら自分の所有地を他人に我が物顔で踏み荒らされたような気分だ。しかし倖貴が買い取った場所でもなく、くっと眉を寄せた。
やや苛立ち、足早に20メートル、10メートルと距離を縮めていくごとにそれの輪郭ははっきりしていった。
「……え」
それが何なのか脳内で確定出来たとき、堅くしかめられていた倖貴の表情は容易く崩れた。
それはまだランドセルも背負わないような齢の小さな子供だった。
倖貴はただ目を見開いて子供を凝視する。
甥の梗一が今年で8歳になるはずだが、この子供はそれよりも幼そうだ。4歳か5歳だろうか。
手入れのされていなさそうな髪は黒に少しの茶色を混ぜたような色。薄い瞼で守られている瞳を、というより顔全体をばらばらと髪が覆っている。小さな体躯に合っていないブカブカの服は誰かのお古だろうか、色味が落ちてくすんでいる。
Tシャツから覗く腕も半ズボンから伸びる足も、大人が少し力を入れてしまえば折れてしまいそうなほど細く、日に当たっていないように生白かった。
顔の作りや服装から見ても性別はどちらか分からない。
公園を振り返って周りを見渡す。
遠くに見えるのはスーツや制服に身を包んだ会社員のみ。
子供の母親らしき人物はおろか、私服を探すほうが難しい。
ふと脳内に過ぎった疑問が口から零れた。
「一人か?」
目を瞑っていても思い浮かべられるほど、いつもと変わらない見慣れた景色に目を凝らす。そう遠くもない場所には白い巨大なマンションが存在を示すように建っている。
あのマンションのようにこの周辺には集合住宅も数ある。それを利用して会社にそう遠くない場所へ住居をかまえる人も大勢いると聞いた。
倖貴の眼前で眠っているこの子供もこの近辺に住んでいるのだろうか。事実、必然的に人が増えたせいかそう遠くもない場所に託児所のような物はいくつかある。母親に手を引かれて歩く子供を見ることは少なくない。
しかし、この時間帯だと話は変わる。昼を回った頃だとはいえ、一人で出歩いているとなるとおかしい。
さて、この子供はどうしたほうがいいのか。
近くに交番はあっただろうか。もしこの子供が迷子だったら倖貴は喜んで保護を求めるよう。
身元が確認できる物はなにかないだろうかと子供を振り返った。
すると前髪の向こうで自分を見上げる黒い瞳と視線がぶつかった。