折原家2
□初めての言葉
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布団は流石に自分達が寝ている所から持って来て、余っていた布団で簡単なベッドを作り、そこに娘を寝かせばちょっとだけ固いのか、
ぐずるので大きめのクッションを布団の後ろに敷いて優しくもう一度寝かせると御機嫌に笑うので一安心した。
『夜泣きしたらごめんね』
「ううん!明日も休みなんだからママといっしょに佑梨のめんどう見るっ」
「しかたないから手伝ってあげる―」
『二人は本当に優しいねぇ。良い子に育ってママは嬉しいよ』
「まだ小学生なのにぃ、ママは気が早いねー」
「中学生になったらはんこうきになるかもよ!」
『そ、それは困るなぁ……』
もう高学年になるというのに、こんなにも優しく、頼りになる兄と姉になってくれて本当に嬉しい。
元々二人は甘えん坊なところもあるし、娘だけを甘やかしていると不機嫌になる事もあるが、そこは臨也との経験と言うのかそういうものがあるので何とかやれている、
と言う自信みたいな部分もあり、こうやって4人なって娘を隣に寝かせていると双子は父親に我慢していたのか甘えるようにくっついて話をしているのだから可愛いものだ。
―――幸せ……。
両脇には大きくなった娘と息子が。
その近くにはクッションの独特の感触が楽しいのか、コロコロと右左と動いている小さな娘が。ここに大好きな旦那がいたらもっと最高なのだが、今は仮別居中だ。
本当に別居するつもりなんて微塵もないが、たまにはこうやっていつもとは違う環境で寝るというのもいい刺激になるかもしれない。
今は自粛中でなかなか外で遊んだり、出掛けたり、旅行に行ったりする事も出来ない。
それに解除がされたからといって移動もできないし、あの移動のせいで―――と考えてしまうと中々難しい。
「ママ、もうねよー」
「ねむくなってきちゃった」
『あ、そうだね。それじゃあ寝よっか』
子供達とあれこれ話していると気付いたらそろそろ寝る時間であり、ちょっとだけ扉の方を見つめるが扉を叩かれる気配もなく、本当に彼は[ママ離れ]しているのかもしれない。
―――ちょっと寂しいけどね……。
臨也だって大人だ。
私より長く生きているし、それなりの人生経験はあるのだから誰かが隣に居なくても[折原臨也]という人間は生きていけるのだろう。
あんな事を言ってしまったが、彼はやはり[折原臨也]で、私達はきっと―――
そんな事を考えつつ、アラームを設定しようと持ってきた携帯を取り出し、画面を見るとびっしりと着信と[今何やってるの?][もう寝たの?]というメッセージが並んでおり、
一番古くて私が子供達の部屋に入った時ぐらいの時間で、思わず笑ってしまった。
「?どうしたの」
「ママ、ねないの?」
『……もうちょっとだけ起きてるから、二人はもう寝ていいよ。おやすみ』
「?おやすみー」
「おやすみなさーい」
携帯を持ったまま立っている母親に不思議そうな顔でこちらを見ていたが、
[寝ていいよ]という言葉ですぐに子供達のサイズに大きくなったベッドで目を瞑って眠ってしまい、二人の寝つきの速さにちょっとだけ驚いた。
双子が寝たのを確認した後、娘を抱っこして起こさないように部屋を出ると狙っていたかのように臨也が向かいの自分の自室に立っており、
[楽しかったかい?]と笑っているので小さく溜息を吐き出す。
『ママ離れできてると思ったんだけどなぁ……』
「直接は子供達の部屋に行かなかっただろう?」
『ま、まあそうだけど……』
「それができただけでも褒めてくれたっていいじゃないか。完璧にママ離れできていたよ」
『……そうだね、そういう事にしておくよ』
成長と言うのか、全く変わってないと言うのかちょっと曖昧な部分だが、こうやって子供達が寝ている間に抜け出していく自分もパパ離れできていないのだろう。