折原家2
□初めての言葉
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<初めての言葉>
新宿 某マンション
愛子視点
「学校、もうすぐかなぁ」
「早く学校行きたいねー」
『きっともうすぐだよ。少しずつ解除されてるみたいだし……もうちょっとの我慢だよ』
新型ウイルスによって休校になっていたのだが、一時的なのかそれとも本当に落ち着いてきたのかよく分からないところだが、
緊急事態宣言は色々な地域で解除され、既に学校が始まった場所もあるらしい。
だが、一番多く感染者が出たここ東京はまだ解除されず、双子は毎日テレビに張り付いていつ落ち着くのか、いつ学校が再開されるのか、今か今かと待っていた。
2人も高学年となり、お姉さんお兄さんになって低学年の子達の見本とならなければならないが、まだまだそれも先の話になりそうだ。
今日も二人はテレビを見ながら愚痴を零すようにそう言うので、苦笑しながら励ませば[そうだよね]と声を明るくし、一番下の娘の所へと走って行った。
「佑梨はまだ学校って分かんないよねー」
「学校ってねー、いーーーっぱいいろんな子がいるんだよ」
「?」
「いーーーっぱい、いーーーーーっぱい!お姉たん達といっしょの子とかー、もっと小さい子とか先生とかいるのっ」
「お兄たんみたいな子もいーーっぱいいるんだよっ」
『お姉たん、お兄たんって……。呼ばせたいの?』
「よばせたいっ」
「一番さいしょはお兄たんがいいな!」
双子の話を不思議そうな顔で見ている娘。
それを見て、自分達に興味を示したのだと思ったのか二人は学校というものを自信満々に話しており、何だか微笑ましいが[お兄たん]と[お姉たん]の発音が強いのは何故だろうか。
娘は少しずつ言葉、というのか[まあ]とか[ぶー]といったそういう単語を発せるようになり、そのうち呼べるのではないか、なんて話していた。
前も旦那が頑張って[パパ]と呼ばせたがっていたが、あの後何の変化もなく、[ぶーぶー]とか全く関係ない言葉を覚え、事あるごとに[ぶーぶー]と言って指を指す。
そして、数日前にはついに[ま、ま]とたどたどしいが私を指さしながら呼んでくれて―――本気で泣きそうになった。
子供にして3人目だが、それでも最初に呼ばれたのが自分だと言うのが嬉しくて嬉しくて―――[ママは誰かなぁ]とわざと娘を彼の前に連れていき、優越感に浸ったものだ。
その後から次は誰が娘に呼ばれるか―――というのが家族の中で競争のような事が起こっており、双子も負けじと話しかけているのだろう。
『でも、まだママ、とかぶーぶーとかそういうのだからお姉たんとかお兄たんは難しいんじゃない?』
「そっかー……じゃあ、ねねとか?」
「ぼくなら……ににかな?」
『あー、ねねとににかー、いいね。パパより言いやすそう!』
「さっきから聞いてれば酷いんじゃない?パパだって言いやすいだろう?」
「とーとの方が言いやすいよ」
「パパは言いにくいっ」
「……娘にとーとは嫌だなぁ。それならとと、とかならまだ許せるかな」
私達の会話をパソコンの画面と睨めっこしていた旦那が聞いていたらしく、全く酷いと思っていないような言葉を発しながらこちらに顔を向けた。
―――私に負けたの、まだ根に持ってるのかな。
「ま、ま」
『はーいっ、どうしたのかなぁ』
「ま、ま!」
『あーっ、可愛いっ!このプニプニのほっぺっ、もちもち肌っ!何を取っても可愛いっ』
「あたしもかわいい!ほらっ、あたしももちもちだよ!」
「ぼくだってまだ、もちもちだよ!さわってみて!」
「君だけ佑梨を可愛がるのは不公平っていうものじゃないかな。俺にだって可愛がる権利があると思うんだけど」
そんな会話の中、全く空気を読まない娘の[ママ]の言葉に思わず顔をニヤケさせながらそちらに行けば、双子は嫉妬するようにこちらにやってきて私の手を掴み、頬を触らせている。