折原家2
□寒い冬には
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<寒い冬には>
新宿 某マンション
愛子視点
「ねえねえ、パパ!」
「とーと、とーとっ」
「…………」
「むししないでよっ、話、聞えてるんでしょ!」
「むしよくない!」
携帯の画面を見つめながら、時々指を動かし、何かを見ている旦那。
そんな父親に向かって双子は邪魔をするように声をかけたが全く相手にされず、私の方にやってきて[パパがむしするぅ]と告げ口のように口を開いた。
『パパ、忙しいんじゃない?』
「えええ……お仕事のイスにすわってないのに?」
「仕事してるなら仕事してる、って言ってくれてもいいと思う!」
『ま、まあ……それは一理ある……』
私に言っても父親が無視するのをなくしたりはできないのだが、まるで二人は[ママからも言ってよっ]と言わんばかりだ。
そんな中でも話の中心である旦那は携帯を見つめ続けており、こちらの話なんて気にも留めていないようだ。
―――年末年始休む為に色々と頑張ってるみたいだし……あんまり我儘言うのも良くないよね。
情報と言うのはいつどこで手に入るか解らない。
そしてそれを欲しがっている人がいる以上、彼に仕事を頼む人がいる以上、旦那―――折原臨也に休みはないのだろう。
なので私達も強くは言えないのだが、双子の言っている事も分かる気がする。
「……ああ、悪いね。少し調べ物をしててさ。それで何か用かい?」
そんな話をしてから数分後。
子供達は[つまんなーいっ][パパにお話あったのになぁ]とグチグチ言っていたが、録画していたアニメを思い出したのか、器用に操作してそれを見ており、父親には飽きたらしい。
そのタイミングで臨也が顔を上げ、本当に何も聞いていなかった、とばかりの顔で私に問いかけてきたので二人が話があったと言うと―――
「それは悪い事をしたねぇ。今丁度一段落したんだけど……二人はアニメに夢中なようだし、また後でにするよ」
とまた携帯の画面を見つめ始めるので、苦笑いした後[それじゃあいつまでも話せないよ]と呟いた。
「……。……そうだね、時間は有限だ。話せる時に話さないと後で後悔するのは自分なんだからさ」
『そうそう。話を聞くぐらいならパパでもできるでしょ?』
「話を聞く以外でも俺はできるけどね。筑紫、紫苑」
その小さな声を聞いていたのか、少しだけ携帯を見つめた後、溜息を吐き出して思い直したのか、双子の名前を呼べば二人もそれに反応するように顔をこちらに向けた。
「あ、パパ。やっとけいたい見るの止めたの?」
「そのうちとーと、けいたい虫になっちゃうよ?」
「悪かったね。俺にも俺の事情、ってものがあるのさ。それで?俺に何か話があったんじゃないの?」
「うんっ、あのね、パパ!」
「こたつがあったらいいなって思わない?!」
「……は?」
アニメを一時停止にして父親の近くまでやってくると満面な笑みで言いたかった事を吐き出し、彼を驚かせている。
臨也の中ではもっと別の事だと思っていたのか、間の抜けた声が飛び出し、私もまさかそんな事だと思わなかったので[何で?]と一緒になって言ってしまった。
「前にハルちゃんのおばあちゃんの家に行った時に、こたつがあっていいなぁって!」
「こたつってね、すっごくあったかいの!だから家にもあったらいいなぁって!」
歳相応の、昔と変わらない太陽のような笑顔で炬燵がいかにいいものなのか語っており、更に臨也を驚かせている。
―――炬燵かぁ……。
―――テレビとかで皆で固まって入ってるの見てると憧れるよなぁ……。
家族で炬燵に入りながら鍋を囲んだり、テレビを見ていたり―――景観は崩れてしまうかもしれないが、確かにそういうのがあってもいいのではないか、と少し思ってしまった。