折原家2

□幸せな瞬間
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もしかしたら[ねね]かもしれないし、[にに]かもしれない。

だが、こうやって頑張っている臨也を差し置いて私や子供達が最初に呼ばれる、というのもちょっとだけ可哀想だ。


『パーパ。ほら佑梨、言えるかなー』

「あーうー」

『パ・パ』

「あ、あ」

『マ・マ』

「ま、あ!」

『……可愛いなぁ、もう!』


娘と目を合わせ、口に人差し指を当てながら言葉を喋ればそちらに集中し、同じような発音をしようとする佑梨。

多分娘の中では私と同じ発音をしているつもりだと思うのだが、聞える音は違うが頑張って親の真似をしようとしている姿がとても可愛らしく、

ニコニコしながら頭を撫でれば双子に似た太陽のような笑顔で笑ってくれた。眩しくて、何の穢れも知らない純粋な顔。

きっとこれからこの子も色々な事を経験し、時に泣き、時に喧嘩し、時に今の私と同じように幸せな気持ちを味わうのだろう。


「急にどうしたの?さっきまで積極的じゃなかったのに」

『うーん……臨也が頑張ってるから、応援したくなった、みたいな?』

「……君の事を[パパ]なんて呼び出したら手も付けられなくなるから、愛子は[ママ]に専念した方がいいんじゃない?」

『そ、そういうもの、なの……?』

「そりゃあ今は親の顔を見て、同じように喋ろうとしてるようなものだからねぇ。父親だから[パパ]、母親だから[ママ]なんて分かってないさ」

『それもそっか……。あの子達ももうちょっと大きくなってからだったもんね』


個人によって違うのかもしれないが、双子の時は比較的早かった気がする。

なのであの子達と比べがちだが、この子にはこの子のペースがあって、のんびり教えていく方が簡単に喋ってくれるのかもしれない。


『あ、じゃあさ、こうやって……佑梨……いないなーーいっ、ママっ……ってどう?』

「……意味が分からないんだけど。何、その自己申告」


もっと簡単に言えるように考え、両手を隠し、[いないないばあ]をアレンジしてみたのだが、臨也には不評のようで娘にはキャッキャッといつもと同じように笑われてしまった。


『だって、もっとこう……いつも臨也がやってるような気の引き方じゃなくて、遊ぶついでに覚えてもらう、とかだったら佑梨も簡単に[パパ]って呼べるかなぁって』

「……その結果がこれだけど。覚えてる様子もないけどなぁ」

『うーーん……佑梨ー、いないなーーーいっ、ママーっ』


何が楽しいのか解らないが、コロンと床に倒れたかと思えばケラケラと笑っており、倒れて楽しかったのか、私の顔が面白かったのか全く分からない。


「これじゃあ使えないなぁ。きちんと喋れる環境じゃなきゃ」

『……臨也と一緒で笑いのツボが分からない』

「……俺は君が言ってる事が分からないよ」


父親である彼も面白い場面では全く笑わないのに、全く別の所でケラケラと笑い出すので、そう言う所が似てしまったのだろうか。

娘はコロコロと揺れていたかと思えばハイハイし、まるで寝転がるようにコロン、とするとケラケラと笑い出し、

またハイハイしてはコロンとしており、何か彼女の中で面白い物が見つかったらしい。


『……そんなに面白かったのかな、あれ』

「さあ。もしかしたら絶叫系に乗せたら喜ぶかもしれないよ?」

『絶叫系に似たスリルがある、って事……?』

「俺に解るわけないだろう?あの子の、ましてや赤ん坊の気持ちなんて」


そのうちでんぐり返しでもしたら喜ぶかもしれないぐらいの勢いで一人で遊び出すので親二人はポツン、と残されたような気分だ。
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