折原家2
□幸せな瞬間
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「ま、俺は俺なりに頑張ってみるさ」
「まっ」
『頑張れ―だって、良かったね、臨也』
「……他人事だねぇ、ていうか既に[ま]が言えるならそのうち呼び出すんじゃない?」
「あっ」
私達を見ながら手を振りおろしたり、横に振ったり、本人は何かしたいようだがなかなか伝わらず、
頭を撫でれば小さな紅葉のような両手で握られ、まだ1歳にも満たない加減のない力で私の手を振りおろしている。
『あーくーしゅっ、ね、握手』
「あーうー」
『そうそう。佑梨は賢いねー』
「パパの手も握ってくれるかい?」
『パパも佑梨と握手したいってっ』
「あーうー」
そんな子供がとても愛らしく、ゆっくりと握り返して言葉を教えると[これが握手かー]とばかりに両手をブンブン上下に動かしてくるのでちょっとだけ肩が痛い。
そんな様子を見ていた臨也も仲間に入れて欲しそうに手を出せば私を握っていた片手を父親の方に持って行き、思い切り握りしめ[握手っ]とばかりに掴んでいた。
「……昨日まで布団でコロコロしてたと思ったらもうハイハイして、二人の手を握れるぐらいまで大きくなったんだねぇ」
『本当だねー。そのうち二人みたいにうるさくなるよ』
「2対1になるか、1対1対1になるか、どちらかだろうね」
『女の子は強いからねぇ。多分紫苑は言いなりになってるんじゃないかなぁ……』
団結力と言うのか、そういうのは女の子の方が強いようなイメージだ。
それに小学生高学年、中学生は男の子達と一緒に遊ぶと言うより、喧嘩したり言い合いをしたり、離れるようになるので双子もきっと一緒に遊ばなくなるだろう。
―――ずっと仲良く、って事はできないんだろうなぁ……。
もっと大きくなればそう言う事も覚えるかもしれないが、思春期という人間にとって必要な時期を迎えれば男女の双子というだけでも恥ずかしくなるかもしれない。
変に意識してしまう事もあるだろうし、それで家で喧嘩―――なんて私は見たくないし、きっとそれは臨也も望んでいないだろう。
「その時は俺も一緒に同じ主張をしようかな。2対1なんて不公平だろう?同じ数がいるかからこそ、対等な立場なわけだしさ」
『じゃあそうなると私は意見しない方がいいね……。3対2になっちゃうし』
「君が最後にどちらに同意するか決めればいいんじゃない?それで必然的に分かるだろう?どっちが正しいのかってさ」
『……物凄く重要な役じゃない?それって……』
「その方があの子達も納得するんじゃない?いくら思春期だろうと母親と言う存在は大きいだろうしさ」
『そういうものかなぁ……』
私には手本となる母親が居ない。
臨也のお義母さんも殆ど海外にいるので手本にはならず、[母親の存在]というものがどんなものかが分からない。
テレビでやっているドラマでしか[母親]というものに触れないので、思春期の子供達にとっての[母親]、そして[父親]との接し方というものがどのように変わるのかもわからない。
「……ま、あの子達なら大丈夫さ。ていうか、そんなに握られても何もないよ?」
「あっ、あー」
「……佑梨が嬉しそうで何よりだよ」
私達がそんな話をしている間も娘は私達の手を握り絞めており、なかなか手を離してくれない。
それが嬉しくもあるが、いつまでもここで座っているわけにもいかず、二人して苦笑いをしながら楽しそうな子供の顔を見つめていた。
そしてそれから数分後、[握手飽きた―]とばかりにあんなに握りしめていたのに簡単に離されてしまい、ちょっとだけ残念そうな臨也の顔があった。