折原家2
□昔の古傷
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ただいつものように家族に朝食を作っていただけなのに―――困る私に臨也は何かをいう訳でもなくこちらをジッと見つめており、助けてくれる様子はない。
―――またいつもの人間観察、かな……。
だが、彼女は臨也の事をそこまで知らないらしく、助けてくれない事に対して鼻で笑ったような表情で[ほら、早く捨てるか、食べるかしてくれない?]と言った。
『っ……自分で捨てるなり、食べるなりしたらどうですか?一応お客さんですけど、お店じゃないので私がやらなきゃいけないってわけじゃないと思いますけど』
「はあっ!?この……っ」
「まあ、いいんじゃない?捨てるぐらいやってあげれば」
『!……っ、分かりました』
いつまでも臨也を頼り、助けを求めるだけの自分でいるのは止めにしようと勇気を振り絞り、
口を開けば相手の勘に触ったようで怒りに震えるような、何かの言葉で罵倒しようとしていたようだが、彼はニコニコしながら私にそう言うのでちょっとだけ驚いた。
だが、臨也の言葉に[食べる]という選択肢はなく、自分が食べるわけでもなく[捨てれば?]と言わんばかりの言葉で私にそう言ったので、
そんなものは食べない、早く捨ててよ、という事なのだろう。
「あははっ、私に盾突くからよ!本当、昔とぜーんぜん変わってないんだから」
『…………』
「それで?君はこんな時間から何しに来たの?わざわざ朝ご飯を持ってきただけじゃないだろう?」
大袈裟に笑う女。
変わってないのはどちらだろうか、そう思いながら、それでもこれ以上何を言っても変わらないし、この人に用事があるわけでもない。
静かに作ってきたサンドウィッチを生ごみのゴミ箱に放り込み、[ごめんね]とちょっとだけ勿体なくなく感じつつ、
2人がいる場所に戻れば2人は親密そうに話をしており、私も仕事が手伝えたらもっと何かが変わっていただろうか、そう思いながら眺めていた。
「……あら」
『あ、波江さん。おはようございます」
「おはようございまーす!」
「おはよう、波江さん」
そんな事をしていると玄関から聞き覚えのある声が聞こえ、そちらを向けば秘書である波江さんが訝しげに、それでも状況を理解したらしい表情をしつつ中に入っていく。
「初めましてですよね。私、臨也さんに仕事を依頼してる山坂悠莉(ヤマザカユウリ)って言いますっ、短い間ですけど、宜しくお願いします」
「話は聞いてるわ、矢霧波江よ。宜しく」
「波江さんって呼んでもいいですかっ?こんなに綺麗な人がいるなら教えてよ、臨也さんっ」
「本人に会って直接自己紹介した方がいいと思ってね」
「そうだよね。まあ、波江さんともお近づきになれたし、それでいいや」
「勝手に話を進めないでくれるかしら。私は貴女に下の名前で呼んでいい、なんて一言も言ってないわ」
―――流石波江さん……。
―――何も変わらないなぁ……。
流れるように話が進む中で波江さんは自分の事を許可なく呼ぶ相手に向かって冷たく言い放てば
[そ、そうですよね、すみません]と小さくなり、小さな声で[臨也さんも大変だね]と呟いていた。
「愛子、説明しなさい。何よ、あの鼻に突くような小娘は」
『一応……私の昔の知り合い、らしいです』
「は?貴女って確か……ああ、そう言う事。貴方って面倒な星のもとに生まれてきたのね」
『好きでそう生まれてきたわけじゃないんですけど……』
「でも、いいの?放っておいて」
ソファを我が物顔で座り、私を呼ぶので近付けば二人には聞こえないぐらいの声で問いかけてくる波江さん。
仕事の内容は知っていても依頼者には興味ないのか、私の答えに同情でもしているのか溜息を吐いてそう言った。