折原家2
□昔の古傷
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解決するまで休め、というのは可哀想だし、これは私の問題でもある。それに私の過去については何も知らない筈なので急にそんな事を言われても納得できないだろう。
「大丈夫だよ、俺が守るからさ。君達は何も心配しなくていいんだよ」
『でも……これは私の問題でもあるし……』
「確かに君の問題かもしれない。だけど、ここに来たんだ。俺も関係無いとは言えないだろう?」
『……ま、まあ』
「それにあの子には別の仕事を頼まれたんだ。それがある以上は彼女も立派なお客さんって事さ」
『何かやだなぁ……』
関わりたくない、と言ってキッパリと拒絶できればどれだけ楽だっただろうか。
彼には彼の仕事がある。それがどんな人間が関わっていようが私が口出せる権利はない。決めるのは臨也なのだから。
「嫌だって言うだろうなって言うのはあの子の話を聞いて何となく予想してたよ。だけど俺も驚いたよ。まさかあっちから君にコンタクトを取るなんて思わなかったから」
『私だってビックリしたよ?!突然[昔の知り合い]って言うんだから……』
「あはは、まあ安心しなよ。君にそんな傷を残して……俺が、許すわけないだろう?」
『っ…………』
冷たい笑顔。
笑っているのに目は怒りに満ちているような―――そんな表情に寒気を感じ、相手の機嫌があの人に対して良くないのだと分かり、ちょっとだけ安心した。
私の為に、怒っているのだと。
彼の[俺が守るから]という言葉は本心なのだと。
きっと顔はニヤけているであろう表情に気付いたのか、[何を笑ってるの?]といつもの表情で問いかける臨也。
『べっつにー。ちょっとだけ……嬉しかっただけ』
「……俺の言葉が本心なのか分からなかったから不安だったけど、俺がああ言ったから嬉しくなった、そんな所?」
『まあ、そんな所。ほら、切り替えて行かないと子供達帰ってくるよ』
「もうそんな時間か。時間っていうものはあっという間だねぇ」
『この話もまたあの人が来てから、だね』
―――――――……
数日後 朝
愛子視点
「臨也さんに朝食を作ったんだけど、どう?」
「気持ちは嬉しいんだけどさ、朝食は彼女に作ってもらってるからそういうのは遠慮してるんだ」
「そうなの?でもほら、片手間に食べられるサンドウィッチにしたから仕事の合間にでも食べれるでしょ?」
狙っているのか、それともたまたまか子供達が学校に行った後に入れ替わるように彼女がインターフォンを鳴らし、中に入ってくる。
居留守でも使えばいいのに臨也は律儀にドアを開けて相手を迎えるのだから妻としての気持ちが落ち着かない。
それでも料理を作ったという相手に彼は一切受け取ろうとはしないし、何やら小さな声で話をしていた後でも[遠慮しておくよ]と笑顔で否定する。
―――ちょっと珍しいかも……。
いつも逆ナンされると気付いたらあれこれ貢がれていたり、
まるで恋人扱いをするかのように優しく接するのだが、こうやって笑いながら拒否するのはそんなにない事なのでちょっとだけ私の方が驚いた。
「折角作ったのに……それならいいよ。大河さん、これ、食べてくれない?」
『え』
「勿体ないでしょ?折角お近づきになれたんだし、お互いに好みの味なんて知るのもいいんじゃない?」
『そ、そう、ですか……?彼に作ったものなら彼にあげた方が……』
「ひどーいっ、そんな言い方ないと思う!折角のサンドウィッチも誰も食べてくれなかったらただの生ごみと一緒じゃない。それならこれ、捨てておいてくれる?」
何で私が、そう思った。