折原家2
□昔の古傷
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<昔の古傷>
夕方 新宿 某マンション
愛子視点
『ただいまー』
「おかえり、君にお客さんが来てるよ」
『?』
竜ヶ峰君達と買い物に出掛け、帰ってきた夕方。
また何か言われるのでは、なんて思いながらいつも通り鍵を開け、中に入るといつもの席、とは違い、ソファに腰掛け、先程まで誰かと話をしていたように私に声をかけてくる旦那。
私にお客さんなんて―――なんて考えながらリビング兼事務所に入れば知らない人が[大河さんだよね?]と声をかけてきた。
『?』
「君の昔の知り合いらしいよ?何か用があって愛子を探してたみたいだけど」
『???』
―――昔の知り合い?
―――何で私を探してるの?
訳が分からず、旦那に話をされても理解できず、頭の中がぐちゃぐちゃになり始めていると知らない人が[ごめんね、分からないよね]と残念そうな顔をした。
「今更遅いって思ってるっ、だけど……私、今からでも貴女とやり直したいのっ!」
『やり直す……?どうして、ですか?』
「私、あの時どうかしてた……。虐めるのが楽しくて、何も言わない貴女をからかってただけなの……!本当に本当に、ごめんね……っ」
―――ああ、あの中にいた人か……。
話の内容で何となく思い出す。
必要以上に私に構い、暴言や時々暴力を振るう思い出したくもない学生時代。家で暴力を振るわれ、何が面白いのか私をからかい、馬鹿にしてきた人達。
顔は全く覚えていないが、そういった行為をしてきた中の一人だと思えば心が急激に冷えていく。
目の前の人が今更何かを言った所で信用できるわけもないし、こんな所に来たという事は碌でもない事でも考えているのだろう。
「積もる話はあると思うけど、今は顔合わせって事でいいんじゃないかな。ほら、彼女も色々と混乱してるみたいだしさ」
「そ、そうだね、それじゃあまた来るね」
「お待ちしてますよ」
黙る私の心情を察したのかそれとも子供達が帰ってくる時間だと気付いたのか、
旦那が張り付けた笑みを浮かべて相手に声をかければ馴れ馴れしく手を振って彼のもとから離れ、私に近付いてきた。
「貴女のもの、全部頂くから」
『っ!?』
「それじゃあ、また」
小さな声でハッキリとそう言われ、ハとしている間に相手はニコリと笑って玄関のドアを開けて帰っていく。
―――どこまで知ってるんだろう……。
―――臨也の事?それとも子供達?それとも……。
「愛子」
『……っ?……ああ、ごめん。どうかしたの?』
「……君が何を考えてるのか知らないけど、例え他の誰かが俺や子供達、君の友人の事を知ったとしても何も変わらないよ。知った所で手は出させないからさ」
『っ、臨也……っ』
一番狙われているであろう旦那―――折原臨也はニコリと笑って私の肩に手を置き、そのまま引き寄せ包むように抱きしめるのでやっぱり彼は変わらないな、なんて思いながら涙を流した。
前に一度私の元クラスメイトの人間が近付いてきたが、臨也の事も私がどんな友人がいるのか知らないようだった。
だが、今回はここまで来て、私に直接[奪ってやる]と言いに来たのだ。
部屋の中を見ても子供達の形跡も私が住んでいる形跡もないのでネットの[情報屋の女]というのを調べたのかもしれない。
―――全部頂くって言うのは、何だろう……。
「今日から君は無暗に外に出ない事。買い物なら俺が行ってきてあげるし、もし俺ができなさそうならネットで配達を頼むよ。それでいいよね」
『……う、うん。でも子供達は大丈夫かな』
私は買い物や誘われて出掛ける事ぐらいしかなかったのでそれを止めれば出掛ける理由はなくなるのだが、子供達には学校がある。