折原家2
□久しぶりの
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「食べさせてよ」
『……えええ……。私だって忙しいんだよ?』
「いいじゃないか。たまには甘えさせてよ」
『……もう、分かった。それじゃあ少しだけだからね』
言いたい事はあったが、本人が動かない以上私にはどうしようもできないので無理だけはさせないようにしようと思いつつ、
隣に腰掛け、先程磨り潰したリンゴのお皿を片手に、スプーンですくって彼の口元へと持って行く。
それに気付いた臨也はマスクを降ろし、口を開けるので、中に入れれば[冷たいね]と小さく呟く。
『はいはい。ほら、あーん』
「あーん」
『……まだ、食べれそう?』
「……止めておこうかな。少し、横になってもいいかな」
『あ、うん』
少し嬉しそうに口を開けてリンゴを食べている臨也に私も嬉しくなりながら何度か彼にリンゴを食べさせていると3分の2ほど食べ終わった所で首を振るので
いつもにしては食べた方だな、と思いつつ、離れようとすると[どこ行くの?]と小さな声で問いかけてきた。
『え、寝るんでしょ?邪魔かなって思って』
「邪魔じゃないよ。寧ろ君には膝枕して貰いたいぐらいなのに」
『ええええ……』
「……これは無理なお願いだって言うのは知ってるから、聞かなかった事にしてくれないかな」
『……うん』
―――何か、悪い事しちゃったな……。
まだ体調がいまいちなので、彼も甘えたいのだろう。
だが、近くには赤ん坊が居て母親が子供を優先するのは分かっているのか、少しだけ残念そうにそう言ってクッションを枕にして横になる臨也。
ここで寝なくても寝室ならばゆっくりと眠れると思うのだが、彼は何かを言う訳でも動くわけでもなく、静かにソファでマスクを元に戻して目を閉じていた。
「寝る前に薬ぐらい飲んだらどう?また熱がぶり返すわよ」
「……そうだね」
寝てると私は思っていたのだが、波江さんは彼の顔を見ずに淡々と口を開き、問いかければゆっくりと目を開け、気だるそうに上半身を起こす臨也。
『辛くない?無理なら部屋で寝た方がいいよ?まだ熱が下がったばっかりなんだから』
「平気だよ。夕方ぐらいには仕事に復帰しようと思ってるから」
『ええええ……また熱上がるよ……?』
市販の風邪薬を渡しながら心配する私を横に、彼はそれを受け取り、一気に水で流し込むと自分の中の予定を口にする為、そんなに予定通りに行くわけない、とハッキリと口にすると―――
「そうだね、俺も完璧に予定通りいくとは思ってないよ。ただ、それでもそれぐらいの気持ちじゃないとズルズルと寝込みそうだしさ」
と自分の体調が良くない事が分かりきっているかのように溜息を吐き出し、自分の本音を口にする。
こちらからしたら[どうぞどうぞ]と喜ばしく提案したいが、彼にはそれが許せないらしく[君は甘いから]と付け足した。
「甘いから甘えちゃうんだよ。まだ少し体調が良くないし、仕事もそこまで急ぎじゃないから、ってさ」
『甘えちゃえばいいんだよ。いつもは子供達で手一杯な分だけ、たまには臨也も甘えなきゃ』
「……。……そうだね」
何かを言いかけて止めたのが、マスクの動きで分かったが何故止めたのかは分からない。
一言そう言うとソファに横になり、[夕方になったら起こして]と言い残し、今度こそ規則正しい寝息が聞こえてきた。
「貴女は甘やかしすぎなのよ。ちょっとぐらいアイツの尻を叩いてやらないと、臨也の為にならないわよ」
『……そう、なんですけどね、なかなか……』
「分かってるからこそ臨也も無理は承知で起きてきたのよ。本当、馬鹿な男だわ。……貴女も好きだけじゃ成り立たないわよ」
体調が悪い時ぐらい甘やかしたい。
好きなように、体調が良くなるまで大事にしてあげたい。それは彼の為にはならないのだろうか。