折原家2
□久しぶりの
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<久しぶりの>
新宿 某マンション
愛子視点
『…………』
「…………」
『……はあ。仕方ない事だと分かっててもさぁ……』
旦那が久しぶりに体調を崩した。
フラフラと起きてきた時に不審に思い、嫌がる相手の額に手を置けばかなり高い熱があり、そのまま寝室に寝かしつけた。
本人は大丈夫だと言い張るが、辛そうな顔を見ればそれが嘘だと分かり、溜息しかでない。
とりあえず赤ん坊と私は寝室から離れて過ごしているがこのままずっといるわけにもいかず、
これからどうするのか考えていると携帯が震え、私を呼ぶので娘を秘書に任せ、寝室に向かえば何か言いたそうな顔をする相手。
『何か欲しい物とかあるの?どうかした?』
「[分かってるくせに]」
『……。……はいはい、ちゃんと一緒にいるから、無理せず眠ってください』
「[寝る時も勿論一緒だよ。離れるなんて許さないから]」
『……携帯で文字打つより、喋った方が絶対辛くないと思うんだけど……』
声は出ると思うのだが、相手―――折原臨也は携帯を手に持ち、ポチポチといつものスピードよりだいぶ遅いながらも自分の意志を打ち続けている。
携帯の光というのは熱がある時はかなり辛いとは思うのだが、相手は[こっちの方がいい時もあるんだよ]と小さく口元を緩める。
『いいとは思えないけど……まあいいや。眠れそう?』
「[どうかな。眠れなかったらどうするの?]」
『別に……どうもしないけど。自分が楽な姿勢でいればいいんじゃないかな』
私の身体ではないので彼がどのようにしていれば辛くないのか、なんて分からない。
私なら携帯を触っていたら気持ち悪くなるし、起きているだけで辛くなるが、臨也は赤い顔をしながらも目を開け、
苦しそうに呼吸し、それでも携帯に文字を打ち込んでいるのに[これがいい]と言う。
―――よく解らないなぁ……。
「[ねえ、もっと話してよ。俺が話を止めると君も止めるのは良くないよ?]」
『だって、辛いかなぁって思って』
「[辛くないよ。辛くないから話してよ。黙ってる方が辛いからさ]」
―――臨也なりの現実逃避なのかな。
熱を出した時は大体そうだ。
何か話して欲しい、そう彼は言い続け、私に無茶ぶりしてくる。よく解らないな、と思いつつ思い出した事を時間をかけて、
時々思い出話を混ぜながら話をすれば携帯から手が離れ、苦しそうながらも小さな寝息が聞こえ、彼が寝たのだと分かった。
『ゆっくりおやすみ、臨也』
――――――――……
翌日
愛子視点
『……臨也、起きてきていいの?』
「熱は下がったんだ。いつまでも寝込んでいられないよ」
『…………』
昨日あれだけ高熱を出して布団の中でうんうんと唸っていた臨也がお昼頃、
唐突に寝室のドアが開かれそこからゆっくりと現れたかと思えば、リビング兼事務所となっている場所にマスクを付けてやってきた。
秘書である波江さんも今日も寝込んでいるのだろうと思っていたのか、いつもでは見せない表情で彼を見つめている。
―――良くなったようには見えないけどなぁ……。
熱でエネルギーを使ったせいか、彼は疲れ切った表情をしており、元気になりました、というようには決して見えない。
臨也にも色々あると思うが、長引くよりは熱が下がっても今日一日寝室で寝てて欲しいと言うのが本音だ。
『ご飯は?食べられそう?』
「……そうだね、食べておくよ」
『うん、分かった』
ソファに深く腰掛け、腕を顔に近付けて息を吐き出す姿は辛いのを我慢しているようにしか見えず、後で説教だな、と思いつつリンゴを擦り潰し、彼の前のテーブルに置いた。