折原家2
□ちょっとした未来
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―――え、何で……!?
寝る前まではまだ小さな赤ん坊で、こうやって喋ったり、動き回ったりする事は出来ない筈だ。
それなのに目の前にいる旦那や私に似た子供は私の事を[ママ]と呼び、早く起きてとばかりに身体を揺らしている。
『え、と……パパは?』
とりあえず状況など知りたい事が山積みなのでここにいない臨也に聞こうと問いかけるが、首を傾げてよく解らないらしい。
―――どういう、事……?
『……とりあえず下に行こっか』
「!うんっ」
僅かな不安が過ったが、まだ小さい子供なので私が言った事が理解できていないだけだと自分に言い聞かせ、身体を起こし、ベッドから降りて手を繋いで下に下りて行く。
『……何、で……?』
ドアを開け、上から見える景色から私の不安はどんどんと大きくなっていく。
いつもならここからでも彼が使っている机や椅子、本棚など仕事で使うものが見える筈なのだがそれらしきものが見当たらない。
代わりに上の子供達のものだと思われるが増えていて―――私の頭は混乱する一方だった。
首を傾げる娘に[大丈夫]と言って確認する為に一緒に事務所兼リビングへと下りて行けば、大きくなった娘達が[あ、お母さんっ]と嬉しそうに声をかけてきた。
―――中学1年生ぐらいかな……。
小学6年と中学1年なんてそんなに変わらないのでもしかしたらまだ小学生なのかもしれないが、
手を繋いでいる娘が3歳、4歳ぐらいの見た目なのでもしかしたら既に中学生かもしれない。
「母さんはお寝坊さんだね。もう朝ご飯できてるよ」
「今日は紫苑が作った目玉焼きっ!早く食べようよっ」
『……ね、ねえ……パパは?パパはどこにいるの?』
明るい筑紫と思われる娘と臨也によく似た紫苑が笑いながら私に声をかける。
だけど私には何が何だか分からなくて―――縋るような声で問いかければ、二人は言いにくそうな顔をしながらお互いに見つめ合っていた。
―――分かっていた事、分かっていたけど心が否定してる……。
―――きっとその言葉を言われたら私はきっと……。
「……父さんは……っ」
「……お父さんは……佑梨が2歳になる時に私達を庇って……大怪我をして……それで……!」
「亡くなったわ。あんな奴でも案外簡単に死ぬのね」
――――――――……
愛子視点
『っ!?』
一気に意識が浮上し、周りを見渡す。
真っ暗だったが、寝息と赤ん坊特有の泣き声が響き渡り、ここが現実だと胸を撫で下ろす。
手を伸ばせば臨也の髪の毛と思われる柔らかな質感をスルリと動かし、撫でるように頬だと思われる柔らかくとも固い感覚に娘に影響されるように涙がこぼれてしまった。
―――現実的すぎない……?!あの夢……。
大きくなった子供達と亡くなったらしい臨也。
とても夢だから、という笑い話にはできず、ここに彼が居て本当に良かった、本当に夢で良かった、と思えずにはいられなかった。
「……どうしたの、俺の顔を撫でて」
『……っ、ごめん、起こしちゃった……?』
「そりゃあ佑梨の声で半分起きてたのを突然髪の毛を触られて頬を撫でられたら驚いて起きると思うけど」
『ごめん……怖い夢を見ちゃってさ』
とりあえず娘を寝かせようと電気を点け、抱っこしながら心の中で夢で良かった、と言い続けているといつの間にか起きてたらしい臨也が声をかけてきた。
寝ていると思っていたので驚く私と溜息を吐く臨也に何だか申し訳なくなってしまった。