折原家2

□寒い日の
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「まあ……気付いてないのならそれでいいんだけどさ」


独り言を呟きつつ、自分も起き上がろうと腕に力を入れて上半身を起こせばグラグラと世界が回っているように感じ、

これはもしかしたら寝込まなければならないかもしれない―――そう思うと自然と溜息が漏れてしまった。


「……まだ時間には余裕があるし、もう少し休むか」


粟楠会の幹部と会うのは夕方からだ。

今はまだ早朝とも呼べる時間なのでもう少し寝ていても問題はないだろう。

だが、先程1階へと向かった妻や子供達はいつまでも寝ている旦那を心配し、またこちらへとやってくるかもしれない。


男が起きているのを知っているので、もしかしたら朝食の準備ができたと呼びに来るかもしれない。

そうなれば自分の不調なんてバレてしまうだろう―――もう一度溜息を吐き出し、隙間が無いように毛布を被り、目を瞑る。

あれこれ考えるよりも自分はまだ眠いのだ、起きてから考えればいいか―――そんならしくない事を考えつつ、ゆっくりとゆっくりと意識を沈めて行く。


「パパ、どうしたの?」

「かぜ引いたの?」

『うーん……どうかな。もしかしたらそうかもしれないね』


子供達と1階へと下りてきた私。

丁度いい温度に設定しつつ、暖房をつけ、朝食の準備をしていると子供達が父親がいない事に気付いたらしく、首を傾げながら問い掛けてきた。

少しずつ空気が乾燥し、寒さも増し、温度差も出てきて―――風邪を引いてしまう人間が多くなってくるのがこの時期の特徴かもしれない。

いつもの事だと分かっていても、今回は特に不調を感じず、あったとしても元気が無さそうとか、毛布で温かい筈なのに[今日は一段と冷える]と言っていた事ぐらいか。


―――ちゃんと話してくれるって約束はしてるけど……心配なんだよなぁ。


無理はしない、何かあればきちんと話す。

そう彼―――折原臨也と約束したのだが、今回は急な仕事で粟楠会の人と会う、と言っていたのでもしかしたらそんな約束すら守ってくれないかもしれない。

彼は自分の身体よりも、自分の欲望というのか好奇心と言うのか、

そういうものを優先してしまう所があるので[池袋で大きな騒ぎがあった]という情報が手に入れば、身体の不調なんて気にせずに飛び出していくかもしれない。


―――私が変に気付いたり、声をかけたりしたら嫌がりそうだなぁ……。

―――でもこのまま放っておく、ってわけにもいかないしなぁ……困った。


放っておく事はできないが、私が気付かない方が彼にとってはやりやすいのだというのは何となく解る。

自分がとても心配性だというのは臨也と住み始めて分かった事で、[そういう部分もあるのだ]と嬉しくなった所でもあり、彼にとっては足枷みたいなものだろう。

私が心配しなければ自分は自由に動ける。好きな人間達を思う存分観察できる―――そう思う反面、心配されて嬉しいという気持ちもあるのだというのは見てきて解った所だ。


「ママ?」

「ママもかぜ?」

『え……、あ、ごめんね。パパの事考えてた』

「しんぱいだもんねー。ちゃんとパパに[ねてなさい]って言った?」

「マスクしなきゃダメだよって言った?いっぱいねないとなおらないよって言わなきゃダメだよ!」

『そうだよねー……やっぱり。でもさ?今日お仕事があるんだって。だから無理に休んでって言えないかもって……』

「ダメだよぉ!ちゃんと止めなきゃー……」

「とーと、たおれちゃうよー?ママはそれでいいの?」

『そ、そうだよね……。パパの身体を考えたらやっぱりちゃんと言った方がいいよね』


あれこれ悩んでいると二人が心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいて―――いつの間に、と驚いたが、二人の言葉は迷っている私には強い言葉であり、

[とーと、たおれちゃうよ?]という言葉にやっぱりそうだよね、と吹っ切れたような気分になった。
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