折原家2
□寒い日の
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<寒い日の>
新宿 早朝 某マンション
愛子視点
『おはよ、臨也』
「……おはよう」
―――どこか元気がない気がするけど……気のせいかな。
起きる時間より僅かに早い時間。
このまま寝てしまえば起きれなくなりそうだが、それでもまだ起きるには早いので布団の中でダラダラとした時間を過ごそうと
携帯のアプリを開いているとモゾモゾと隣で寝ている旦那が動き出し、ゆっくりと目を開けるのが見えた。
それに合わせるように声をかけたのだが、どこか元気、というのかいつもの纏っている雰囲気がなく、ペラペラとよく動く口も静かになっており、殆ど何かを話そうとする様子もない。
首を傾げたがあまり寝てなくて機嫌が悪かったり、眠かったり、まだ寝ぼけていたりする事もあるのでそこまで気にせずに携帯の画面を見ながら静かな時間を過ごしていた。
「愛子」
『?どうかしたの?』
「……何でもないよ。ただ、静かだからもう下に下りたのかと思っただけさ」
『折角ちょっと早く起きたんだから、その分のんびりしたいでしょ?臨也はまだ寝ててもいいんだよ?今日は予定とかないんでしょ』
「急な仕事で……四木さんに会う事になったんだ。今回はかなり池袋でも大きな騒ぎになってるらしいよ」
『そ、そうなんだ……。大変だね、情報屋も』
昨日のお昼ぐらいに聞いた時は久々にのんびりできる、とかそんな事を言っていた筈なので
そう言ったのだが、ちょっとだけ困ったように布団で顔を隠すように、身体を温めるように上に上げながら頼まれた事について話してくれた。
本当に何もない日、というのは旦那にとってはないのかもしれないが、たまには何も考えず、
何の情報も得ないぐらいダラダラとした時間を過ごしてもいいと思うのだが、きっとそんな事を言ったら彼の仕事を否定する事になってしまうので、私の心の引き出しにしまっておこう。
―――どんな時も人間と関わっていたいんだもんね。
どんな些細な事でも彼は知りたがるし、実際旦那が使っているパソコンやファイルなどには様々な情報が詰まっているのだろう。
まあ流石にバレたら危ないので、色々な所に隠しているのかもしれないが。
「……そろそろ起きる時間じゃない?」
『……あ、本当だ。時間があるならゆっくりしてていいからね?』
「そう、させてもらおうかな。今日は一段と冷えるから」
『?そう?まあ朝だし、しかも気温が低いし、寒く感じるのは無理ないかも……』
もぞもぞと自分の携帯を引き寄せながら時計を確認し、それを伝えてる相手。
それに合わせるように自分も携帯の時計を見れば、起きる時間で―――もう少ししたら子供達も起きてくるのだろう。
朝晩は特に冷え、毛布が無ければ凍えてしまいそうで―――何日か前に分厚めの毛布を出して一緒に寝たぐらいだった。
―――もう冬に近付いてるんだよね……本当1年ってあっという間。
「……愛子?」
『ん?どうしたの?』
「俺が声をかけてるんだから、返事ぐらいしてくれたっていいじゃないか。無視は良くないよ?」
『そ、そうだね、ごめん……。1年ってあっという間だなぁって改めて考えちゃってさ』
「……そうだね。暑い暑い言いながらクーラーを付けてたのが懐かしいよ」
『そうだよねー……。あ、臨也。私に何か言いたい事があったんじゃないの?』
「大した事じゃないから気にしなくてもいいよ。……ほら、子供達が呼んでるよ?」
ドアから子供達の高い声が響いており、今日も今日とて元気な所は変わりないらしい。
子供は風の子というのは本当なのかもしれない、なんて思いながら彼から離れて子供達と共に1階へと下りて行く。
「……君なら気付くと思ったんだけど、ヒントが少なすぎたかな」
起きた時から感じる悪寒。
彼女を湯たんぽ代わりに抱きしめながらどうにか凌いでいたのだが、相手はまだ気付いていないらしく、普段通りに1階へと下りて行ってしまった。