折原家2

□その日の時
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まあ本当に触れただけなので、いつかは自分達の祖母や祖父がどういう事を母親にしたのか、という事を教え、

そういった事はしてはいけない、生まれた命は大事にしなければならない、という事も教えなければいけない時がくるだろう。


―――もう、言わなくてもいいんじゃないかなって思っちゃうときもあるけどね。


別に話して面白い話ではない。

聞いて楽しくなるような話でもない。

ただ―――世の中にはそういう人達がたくさんいる、という事を、身近にそういった体験をした人間がいるのだと言うのを知って欲しいだけなのだ。


「さあね。俺は俺でこれでも忙しいんだ。もしかしたら傍にいてあげられないかもしれないよ?」


試すような顔をする臨也。

彼はどんな答えを待っているのだろうか―――そう考えたが、何も思い浮かばなくて素直に[臨也なら傍に居てくれるよ]という根拠のない、信用と勘でしかない言葉を吐きだした。


「俺なら、ねぇ。……じゃあ言うけど、今日から一週間は遅くなるからね。後、1カ月はこうやってのんびりと話をするのも難しいかも、って言ったらどうする?」

『……泣いちゃう』

「…………」


[どうする?]と聞かれたので、素直に呟いた言葉だったのだが、臨也の顔は[えええええ]と言わんばかりで―――

飽きられているのではないかと心配したが、少し経ってから小さな声で笑い出した。


「いやあ、やっぱり面白いよ。君なら[それならまだ話せないね]とか言うのかと思ったんだけど……泣いちゃうなんて言われたら、早めに仕事を終わらせるしかなくなるじゃないか」

『あ、終わらせてくれるんだ……』


泣いたり、不機嫌になったり、不安になったりするとほんの少しだけ優しくなる臨也。

それが自分のせいだというのが一番分かっているからなのか、それともたくさんの女の人を相手にしてきたからこそ、

ここは機嫌を取っておこう―――という勘なのかは解らないが、こういった事に惹かれてしまう自分。

計算された事なのかもしれない、経験からの事かもしれない、それでも自分を助けようと言う気持ちがあるというのはやはり嬉しいものなのだ。


「まあ別に慌てて終わらせるような事でもないし、仕事かこれから付き合っていく君達を天秤にかけた結果、かな。それに前みたいに寝る時間を削って、とかではないから安心してよ」

『そっか……じゃあそれまで待ってようかな』

「……思ったんだけど、別に言いにくい過去でもないんだし、君が一人で言うっていう選択肢はなかったの?」

『……じゃあ臨也にだけ、その時何があったのか教えてあげなーいっ、家族と仕事を天秤にかけるならそれも天秤にかけてよ』

「……。……分かったよ。できるだけ君達が起きてる時間は空けるようにしておくよ」

『あ、だからって無理しちゃダメだよ!……私、結構無理難題言ってる……?』


言えないわけではない。

ただ、お腹に弟か妹ができた、という事を伝えるだけだ。臨也がいなくても言える、と思う。だが―――折角なら彼も一緒に聞いていて欲しい、というのが本音だったりもする。

既に知っている事なので2回目になってしまうが、一緒になって新しい家族ができた事を喜んでほしいのだ。

だが、仕事があるのでなかなか都合がつかないようで―――臨也には無意識に酷い事を言っているかもしれない、そう思った。


「そうだね、結構君は酷い事を俺に注文してると思うよ。俺が無理だって言えば全部崩れてしまうぐらいのね」

『……そうだよね。ごめんね、でもどっちも本音だから……。ほんの数十分、時間が取れればそれでいいから……』


話すのなんてそれぐらいで充分だ。
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