折原家2
□貴方の歌声
2ページ/14ページ
『そうそう!みんな幸せになれるなんてそうそうないと思うよっ?』
「皆が幸せって……俺は幸せじゃないんだけど」
「パパはしずかに本を読んでてほしいんでしょ?それなら図書館っ、図書館行ってー、カラオケっ!」
「カラオケ、きっとたのしいよー?とーとも行きたくなって来たでしょー」
「ならないね、全然」
『もうっ!パパって本当に頑固じじいだねっ!』
「がんこじじいーーっ」
「がんこじじいーーーっ」
「…………」
―――あ、めっちゃ呆れてる……。
段々腹が立って来て彼の気にしている事を口にすれば、言い返す言葉がないほどに呆れた顔をしており、何言ってるんだコイツ、みたいな顔で私達を見ていたが大きく溜息を吐き出して―――
「俺が行きたくなるようなプレゼンができたら連れて行ってあげようじゃないか」
と何を思ったのか、そう言い出し、私達を挑発する臨也。
二人は[プレゼン?]と首を傾げていたが、臨也が意味について説明すれば[プレゼンするっ][プレゼン、プレゼンっ]と本当に理解したのか解らない表情で連呼する双子。
『ええええ……何でパパの為にそんなこと考えなきゃいけないのぉー?』
「それならいいんだよ?俺は行かないし、君達も行けない。……あ、だからって他の人間に頼るのはナシだからね」
『……ちっ』
「……愛子、君さ何がそんなに不満なの?俺の相手とか最近雑だし……俺達の間にはもう愛はないのかい?」
『ありすぎて困るぐらいにはありますよーっ、でも、一緒に住んでたら腹を立てる事ぐらいあるのっ』
彼に言っても分かってくれないかもしれないが、曖昧に、それでも素直に口にすれば[例えば?]と小さな声で問いかけてきた。
『うーん……そうやってすぐ否定する所とか……頑固な所とか素直じゃない所とか……いっぱいあるよ?』
「…………」
『でも、それ以上にちゃんとパパの事は、す、好きだからね?』
「それならカラオケなんて行かなくてもいいじゃないか」
『それはそれ、これはこれ』
「……これだけ俺が否定し続けてるのにまだ行きたがるなんて、根気が強すぎて俺にはどうしようもないよ。……分かった、俺の負けだ。好きにすればいいさ」
好きなのは変わらない。
嫌な所、イライラしてしまう所、たくさんの負が確かに存在するが、それ以上に良い所もいっぱい知っている。
だからこそ、10年以上もこうやって彼の傍で笑う事ができるし、これからの人生を臨也と一緒に歩んでいきたいと思う。
私達が自分の言葉すら跳ね除け、反発し続けているので流石の彼もどうしようもなくなったらしく、
物凄く仕方なさそうな顔で、まるでこの後の未来に絶望しているかのようにそう言った。
「!ぼくたちのかちだね!」
「カラオケに行けるね、ママっ」
『ねーっ、パパにいっぱい歌ってもらおうね!』
「ねーっ、早く明日になってほしいっ」
「すっごくたのしみーっ」
「……俺は憂鬱だよ」
―――――――……
翌日 昼頃
愛子視点
『パパっ、ほら、行くよっ』
「パパじゅんびしてっ」
「とーと、早くして―っ」
「…………」
お昼ご飯を食べ、片付けが終わったので、さてお楽しみのカラオケだ、
とばかりにソファに座って携帯を眺めていた臨也に声をかければ子供達も既に行く気満々なのか、服に着替えて彼の両手を引っ張っている。
『ほらーっ、昨日の言葉はどこに行ったのー?』
「喉の調子が悪いからまた今度にしない?俺は行きたかったんだけどなぁ、喉の調子が悪いから歌えないかなぁ」
「えええっ、パパのどいたい時、しゃべんないじゃんっ」
「ずーーーっとママにあまえてるっ」
「…………」
分かりやすい嘘を吐くので子供達はジト目で父親を見ながらそう指摘すれば、大きな溜息を吐き出しながら他の嘘を考えている様だ。