折原家2
□甘えたくなる日
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まあ私もほんの少しだけ、彼が甘えてくれるのを期待している部分はあるのだが。
「……まあ君が俺との時間を大事にしてくれるならどっちでもいいかな。でも、寂しがり屋と構ってちゃんっていうのは認めるつもりはないけどね」
『ええええ……』
「ずっと気になってたんだよ。君から見た折原臨也っていう人間はどんな風に見えているのかな、ってね」
『私から見た、臨也……』
色々な事が頭に浮かぶ。
様々な臨也との思い出。臨也との会話。考えれば考える程、彼はやはり我儘で、それでも優しくて、何だかんだで頼りになって―――構ってくれないと拗ねてしまうような人。
一人でいるのが好きなくせに、一人でいるのが耐えられない、そんな人。ポツリ、ポツリと呟くようにそう伝えれば、ちょっとだけ嬉しそうな顔で笑った。
「……よく見てるね、俺の事」
『そりゃあね。死ぬまでにコンプリートしなきゃいけないから私だって必死になるよ』
「……それって今、どのぐらい溜まったの?」
『さあ?臨也の新しい一面が見えたら、もっと増えるだろうし……このままだったらコンプリートした事になっちゃうかもね』
「そう。……俺もいつまでも俺のままじゃダメだって事か。君の期待に応えられるように努力するよ」
『でもっ、臨也の過去とかまだ知らないから、全然かもね』
友人である岸谷さんとの話は何となく聞いている。というより聞かされている。まあ、出会ったのが中学時代、という事ぐらいなのだが。
天敵である静雄さんといつ出会ったのかも聞いているが、どうして今のような事になったのかは解らない。
―――中学からの知り合い……友人……。
―――そこから考えると……もう20年以上も友達なんだ……。
子供達が歳を取る、という事は私達も当然歳を取る、という事で―――二人の成長は目に見えて解るので楽しいのだが、
私や臨也といった学校を卒業してしまった人間はあまり外見的な成長、というものが見られない。もし自分達がまだ学校と言う教育の場にいたら、どのぐらいの学年になるのだろうか。
「そこ、フォローする所かい?別に君の目標について何か言うつもりはないよ。愛子のやりたいようにすればいいさ」
『……臨也ってさ、特殊だよね』
「?そうかな」
『うん、だって[やりたいようにやればいいさ]なんて、なかなか言えないよ?』
「俺は人間の全てが好きだからね。その好きな人間がやる行為に文句を言うつもりはないよ。まあ、それを選んだ事によって、君や周りがどうなるのか……っていうのは気になるかな」
『ああ……相手に身を任せるっていうのね。……臨也らしい』
他の人間ならばあまり言わないだろう言葉をサラリと口にする臨也。
好きなものが人間だと言うのは知っているが、いくら好きだと言っても受け入れられるものと受け入れられないもの、というのはあると思う。
だが、彼は何の躊躇いもなくこちらに選択肢を与え、その行為の結果がどうなるのかを楽しみにしている。
「例えば誰かを何かで縛ったとしても、きっとそれは脱出をされるのと同じだと思うんだ。その時は良かったのかもしれないけど、
途中で縛った相手が逃げ出す可能性もないとは限らないよね?君みたいなよっぽどな人間じゃない限り、ね」
『……反乱、みたいな?』
「まあそれもあるよね。だから人間を本当の意味で縛る事なんて誰にもできないのさ。
それならいっそ、その人間に選択をする権利を与えればその人間はこの状況をどうするか、って言うのを考えるだろう?」
彼がどのような経緯を経て[その人間に選択させる権利]という言葉を考えていたのかは解らないが、確かにそれならば逃げる可能性も減るかもしれない。