折原家2
□最後の夏
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「ねえねえ、いっしょにトイレいこー?」
「ええええっ、やだよぉ……こわいもんっ」
「あたしだってこわいよっ、ねえ、だめ?」
それから数十分。
布団の中でゴロゴロと寝返りを打ったりしていると姉の方がモゾモゾと動き出し、弟に問いかけたが、怖いのは同じらしく、首を振って否定した。
だが、姉も諦められないのかいつもとは違う、弱った声で頼めば、
流石に放っておくわけにはいかなくなったのか起き上がって[一回だけだからねっ]と言って電気を点け、手を繋いで扉を開けた。
「まっくら……」
「ゆうれい、出てこないかな……だいじょうぶかな」
部屋を出れば何が居てもおかしくないような暗さと、しん、と静まり返り、二人だけでトイレに行くのを止めたくなったが、
両親の部屋を言われた通りにノックしてみたが返事はなく、両親が既に寝てしまっているのだと知り、覚悟を決めて電気を探す。
「でんきないね、パパここら辺をさわってたけど……」
「まっくらだから見えないね」
二人の記憶の位置と両親が触っている位置が違うのか、それとも全く違う所を触っているのか、電気が点かず、二人は諦めて恐る恐る階段を下りて行く。
「……こわいね」
「うん、すっごくこわい……」
何とかトイレまで辿り着いたのだが、真っ暗な部屋が嫌で一緒になって電気が点いたトイレに入り、一人一人用を足していく。
「ここからおへやまで帰らなきゃいけないの、やだぁ」
「ぼくだってやだよっ、でもここでねられないでしょ?早く帰ろ?」
「……うん」
何とかトイレには行けたが、ここからまた部屋まで戻らなければならない―――
そう考えると不安でしかなく、それでもこのままそうしているわけにはいかないので決心し、扉を閉めて一歩を踏み出した。
「っ……ううう……」
「へんな音したっ」
「やだぁああっ」
階段を上る最中に何かが擦れる音、カタリ、と何かがぶつかる音―――様々な音がしん、と静まり返った部屋の中に響き渡り、双子の心を刺激する。
慌てて2階に上ろうとした双子だったが、足がもつれてこけそうになったり、足を引っ張られているような気分になったり―――
まるでお化け屋敷にいるかのように怖がり続ける双子はその場から動けなくなってしまい、[ママぁああ][パパぁああ]と声を押し殺して泣いていた。
「……全く。こうなるとは思ってたけどね」
「っ……?パパ……?」
「とーと?何で、おきてるの……?」
「起きてるの?じゃなくて、起きてたんだよ。お前達がノックしてきた時からずっとね」
「っ、何でいっしょにトイレついてきてくれなかったのっ?!」
ワンワンと、それでも不安をお互いに埋めようと手は離さずに泣いているといつの間にか階段の上で溜息を吐き出し、双子の姿を見つめている人間がいて―――
その声に気付いて顔を上げれば、双子が求めていた相手であり、その男は淡々と子供達の問いに答えていく。
「ちょっとしたお仕置きだよ。それに怖いものが苦手なくせに怖いものを見て、トイレに行けなくなって帰れなくなってるお前達の姿が見たかったから、って言ったら怒るかな」
「おこるっ!すっごくおこる!」
「パパひどいっ!」
「いやあ、俺が上で見ている事にすら気付かないぐらい、お前達はビクビク震えてたよね。それが面白くてね。ついつい声をかけるのも忘れてたよ」
「とーと、くらいところでも見えるの?」
「ぜんぜん見えなかったよ?」
「目が慣れればある程度の動きは見られるよ。[怖いよ]っていうあからさまな声も聞こえたし、びくびくしてるんだろうな、っていうのも簡単に予想がつくしさ」
本当に面白いのだろうと誰もが予想できる程に声を高くしており、双子は改めて自分の父親の趣味の悪さを理解した。