折原家2
□最後の夏
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『何でもありませーん』
「?」
「パパぁ……トイレ、行けなくなったらついてきてくれる?」
「ぼっ、ぼくは、だ、だいじょうぶだもんっ」
甘えるように口を開く姉と男の子だからと気丈に振る舞おうとする弟。
こういう所でも男女の違い、双子の性格の違いというものが見られるのは面白いな、と思いつつ、
彼の反応を見れば私と同じ考えだったのか、ニコニコしながら[自業自得だよ]と突き放すような言葉を吐き出した。
「自分達でどうにかできるから、あの映画を借りたんだろう?それなら自分達でどうにかしなきゃ、ね?」
「……パパ、きらい」
「とーとひどい……」
「冗談だよ。あまり遅いと起きてないかもしれないけど、少しぐらいだったらお前達に付き合ってあげるよ」
「!パパだいすきっ」
「!ぼ、ぼくはだいじょうぶだからねっ」
―――あー……可愛い。
父親の言葉にあれこれと惑わされる双子。
突き放されたような言葉に悲しそうな顔をしながら呟いていたが、[冗談だよ]と言った瞬間、
ほんの数秒で満面の笑みで父親の胸に飛び込んでいき、猫のように顔を擦りつけている子供達に癒される私。
「いやあ、たったこれだけの事であれこれと感情が動くなんて、自分の子供ながら興味が湧くよ」
『子供達で遊ばないのっ、それじゃあ、ママも一緒に付き合ってあげよっかなぁ』
「!本当っ!?やったぁああっ!」
「!それじゃあ、とーとねてもだいじょうぶだよっ」
「……撤回するよ。本当、君と俺の差って何なのさ」
折角3人で夜更かしするという話が出ているのに私だけ先に寝るのは勿体なくて―――
小さく呟けば、双子は首が360度回るのではないかと言う程に一瞬で顔をこちらに向け、大喜びしているので臨也としては面白くないようだ。
「パパもいたらうれしいけどー、ママがいたらもーーーーっとうれしいのっ!」
「とーとは知らないと思うけどねー、ママはすっごいんだからねっ!」
「その母親贔屓にするのは止めて欲しいなぁ。どちらかは俺の方を味方してくれたっていいじゃないか」
「ひいき?」
「ひいきってなーに?」
「……何でもないよ。まあとりあえず、ドアをノックしてくれたら一緒についていくから。……これに懲りてホラー映画は借りて来ないようにね」
「「はーい……」」
―――――――……
数時間後 夜中
視点なし
「……ねえ、おきてる?」
「うん……」
「ねむれないね」
「うん、こわいね」
両親と離れ、部屋へと戻り、電気を消してベッドに入ったのは良かったのだがなかなか眠れなくて―――
もしかしたら片割は寝てしまったのかもしれない、という気持ちに駆られ、問いかければ寝返りを打って向かい合い、話をする双子。
夜はカーテンを閉めてしまうので真っ暗であり、隙間から僅かに光るネオンだけが双子の気持ちを落ち着けた。
「パパたちのところ、行ったらおこられるかな……」
「でも、トイレにはついていってあげる、って言ってたじゃん」
「でも、いっしょにねてもいい、って言ってないよ?」
「……いっしょにねたら、とーとおこるかな」
「パパ、ママのことだいすきだもんねー……おこるかな」
明日は土曜日なので少しぐらい寝過ごしてもホラー映画を見て眠れなかった、と言えば何だかんだと優しい両親なので許してくれるかもしれない。
だが、怖いものを借りてしまったのは自分達なので、眠れないから一緒に寝たいと言って夜中に起こすのも悪いかも、と言う気持ちも働き、なかなか行動に移せない2人。