折原家2
□最後の夏
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<最後の夏>
8月中旬
愛子視点
「パパ見て―」
「こわいえいが、かりてきた!いっしょに見よー」
「……トイレに行けなくなっても知らないよ?」
夏休みの時の話。
双子は夏休みの間、現状を見て父親と遊びに行けないと分かったのか、映画を借りたいと言い出し、
一緒に近くのレンタルショップへと行き、二人の好きな幽平さんの映画、そして定番と言わんばかりに怖い映画を借りてホクホクした顔で家へと帰り、
コーヒーを飲んでいた父親に向かって声をかけた。
まさか双子からそう言われるとは思っていなかったらしく、僅かに驚きつつも二人から預かったDVDをセットし、もう一度ソファに腰掛けた。
「っ……あそこっ、あそこにいるっ」
「かみのけっ!やだっ、こわいっ」
「…………」
「ひゃああああっ、目っ、目ぇええっ」
「いやっ、いやああっ、こわいよぉおお!」
「…………」
淡々と家事をこなしながら二人が借りてきたDVDを見ている姿を横目で見つつ、
声を聴いていると幽霊が出てきた場面から双子は今にでも泣きそうな声で父親に抱き着き、殆ど最後の方まで見れていないようだ。
父親―――折原臨也は終始無言で見つめており、抱き着いて画面を直視しない双子の背中をポンポンと叩きながら最後まで見終わり、[いやあ、面白かったねぇ]と呟いた。
「おもしろくないっ」
「すっごーーーーーーーーっくこわかった!」
「お前達が変な興味を持って怖い映画なんて借りてくるからだろう?そのお金で羽島幽平が出ている映画だって借りられたじゃないか」
『羽島幽平さんの映画は全部借りられてました……』
「……そう。まあ仕方ないね」
不満を漏らしている双子に呆れつつ、正論を口にしたが、私のポツリ、と独り言のような言葉に納得したらしく、溜息を吐き出す。
「前もこんな事があっただろう?あの時は俺が借りてきたけど……それで、怖いから嫌だって言ったのに、まだ懲りてないの?」
「だってぇ……こわくないと思ったんだもんっ」
「大きくなったからパパみたいに見えると思ったんだもんっ」
「……そういうのは年齢は関係無いと思うよ?だってほら、ママを見てごらんよ。ママなんて折り紙付きの怖がりだよ?」
「ママはいいのっ!」
「ぼくなんて男の子なんだよっ、女の子にわらわれちゃうっ」
「……別にいいと思うけどねぇ。それにこんな映画で怖がる事ができるなんて感受性が豊かなんだろうね」
「こんなえいがって言わないでよっ、せっかくかりてきたのにぃ」
「そうだよっ、パパもゆっくりできたでしょっ」
「……そうだね。その点からしたら、お前達にお礼を言わないといけないね」
既にコーヒーを飲んでいたという事はかなり余裕があったのだと思うのだが、臨也は二人の頭を優しそうに撫で、そういうのだから優しいな、と感じてしまう。
まあ彼の仕事が後どれだけ残っているのか解らないので、本当に子供達のおかげでのんびりと、家族の時間を過ごせていたのかもしれないが。
「水道からかみのけが出てくるの、すっごくこわかったねー」
「ぼくはトイレからかおが出てきたのがこわかったー」
「怖かった所、か。……特にないかな。どうやってあのシーンを表現していたのか、気になる所ではあるけどさ」
『……パパはブレないね……』
DVDを片付けながら怖い所を話し出す双子。
そこに混ざるように全く違う所に感心する彼に思わず独り言のように呟くと聞こえていたらしく、[何が?]と解っているのに解ってない顔をする臨也。