折原家2
□楽しかった夏休み
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「痛い人って言われるのは癪だけど、傍から見たらそうかもね。でも、痛い人ってどういう基準で[痛い人]って決めるんだい?それってその人間の価値観だと俺は思うんだよね。
ある人間はその[痛い人]を[痛い人]としてしか見ないかもしれないし、ある人間は[痛い人]を[痛い人]として見ないかもしれない。
だって、そうだろう?アニメのキャラだって現実にいたら危ないキャラかもしれないけど、そのアニメにとっては必要不可欠だ。
そのキャラを好きな人間達はそのキャラを[痛い人]として受け入れているかもしれないし、
[痛い人]と思わずに好きなのかもしれない。それにその中の誰かが欠けても成り立たないだろう?」
『……痛い人って言っただけでそこまで語られるとは思わなかったよ……』
特に深くは言ったつもりはなかったのだが、臨也はまるでそう言われるのが気に入らないようにペラペラと語り出すので苦笑を浮かべながら小さく呟けば―――
「俺が痛い人なら、君は痛い人の妻って事になるけどいいよね?」
最後のトドメだ、とばかりにそう言い切るので返す言葉がない、というか返すのが面倒になり、[そうですねー]とだけ言っておいた。
「ねえ、パパが小学生の時、どんなことした?」
「おにごっことか、かくれんぼとかした?」
「……どうかな。俺はお前達みたいに活発な人間じゃないからねぇ。そういう遊びはしてないかな」
「もしかしてパパ……ずーーっと夏休みの間、あそばなかったの!?」
「えええええっ、つまらないじゃんっ!」
「……勝手に俺の夏休みをつまらない、なんて言わないでくれる?つまらないか、楽しかったのかはその本人が決める事じゃない?」
「じゃあ、パパはたのしかった?」
「ずーっとあそばなかったら、つまんないよ?」
「……どちらとも言えないかな」
―――めっちゃ困った顔してる……。
二人にどうだったかと聞かれ、どう返事を返せば納得してもらえるのか考えている様だが、過去の事をねつ造しても誰にもその真実は解らないとは思うのだが、
情報屋としてこうやって部屋に引きこもり、時々外に出るような生活をしている彼が、子供達のように外で遊びまわっていた、と言ってもそれはそれで納得しないだろう。
まあまだ小学生なので、臨也にもそういう時期があってもおかしくはないとは思うのだが。
―――想像できないんだよなぁ……。
「パパってお外きらい?」
「シズちゃんがいるからきらい?」
「……小学生の時にシズちゃんとは会ってないよ。まあすれ違うぐらいの事はあったかもしれないけどね。
学校も違うし、池袋って言ってもそれなりに大きいからさ、会わなければ一生出会わなかったかもしれないね」
「うんめいの出会いだね!」
「すごいねっ、パパとしずおさんはうんめいだったんだね!」
「……確かにそうかもね。でも、俺は運命なんて信じないよ。シズちゃんに運命を感じるよりも、ママに運命を感じた方がお前達も嬉しいだろう?」
―――まあ……運命、なのかなぁ……。
彼の簡単な一言で集まった私達。
そこでどういう気持ちであの状態に至ったのかは解らないが、この家に連れて来られて―――
帰る家も、居場所も無い私にとってはここに住むしか選択肢がなく、知らない人との共同生活を強いられる事になったが、
気付いたら色々な人に囲まれた、昔の自分が手に入れられなかったものをたくさん手に入れていた。
そして、知らない人が最愛の人に変わって―――こうやって幸せな生活をしているのだから、確かに運命だったのかもしれない。