折原家2
□楽しかった夏休み
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そんな我儘なんて言えないけど―――そんな事を考えつつ、苦手な算数を子供達と一緒になって考えていると
玄関の方から物音がして、3人で一斉に玄関の方を見るのは傍から見たら面白く見えるかもしれない。
「パパかなー」
「とーとだよ、ぜったい!」
『波江さんかもよ?』
「へんな人だったらやだなぁ」
そんな会話をしている間にもガチャガチャと音が鳴り響き、キイ、と鉄が擦れるような音が聞こえてきて―――
まるでホラー映画のような表情で凝視していると、二人の予想は当たっていたようで黒い服に黒いズボンの、
出て行った格好から寸分も変わらない格好をした臨也が扉を開けて靴を脱ぎ、何食わぬ顔でこちらに向かって歩き出していた。
「?どうしたの、3人とも」
「だれが来るのかなーって思った!」
「へんな人がドアをあけにきたのかなって!」
『波江さんかなぁ、パパかなぁ、変な人かなぁ、みたいな……』
「ああ、そういう事か。変な人は多いからねぇ。そういう心掛けは大事だと思うよ?」
その姿が見えた瞬間、私達の中の不安は一瞬で解放され、それでも不安な表情は臨也の方からは見えたのか、
それとも雰囲気で察したのか、不思議そうな顔をしながら問い掛けてくるので素直にそう言うと感心したように口を開いている。
「とーと、おかえり!」
「パパ、おかえりーっ」
『おかえり、パパ』
「ただいま。……それで?今日は何をやってたの?」
「ええとねー」
やっと落ち着きを取り戻したので、ニコリと笑っていつもの挨拶をすれば、臨也もいつも通りの表情で手を洗いながら子供達の話を聞く為に口を開けば、隠す事なんて一つもない、
とばかりにあれこれと話し始め―――自分達の宿題が残っている事すら素直に話してしまうのだから、嘘を吐き続ける臨也とは対照的だ。
「きちんと計画を持ってやらないからだよ?……まあ、だらける気持ちも解らなくはないけどさ」
「でしょー?ママもわかるって言ってくれたよ!パパもダラダラしたことある?」
「とーとはまじめなんだよねっ、だからダラダラしたことないんでしょー」
「真面目、ねぇ。そうでもないかな。夏休みの宿題なんて継続的なものじゃなければ大体始まってすぐに終わらせるか、
お前達みたいにそろそろ夏休みが終わる頃ぐらいに慌ててやるか、どちらかじゃない?毎日勉強なんて好きでもなければ務まらないしさ」
「パパは夏休み、何やってた?」
「シズちゃんとおいかけっこしてたんでしょー」
「シズちゃんと会ったのなんて、高校の頃だから、後はお前達と同じような感じだよ」
「パパ、ともだちいたのっ!?」
「おどろき……」
「……自分達の親を何だと思ってるの?」
話を聞いた臨也は呆れつつも、そういう経験があるのか、あまり強くは怒るつもりはないようで[まあ仕方ないか]という顔をしながら子供達との会話を楽しんでいる様だ。
確かに臨也は岸谷さんぐらいしか仲良さそうに見える人はいなくて―――天敵である静雄さんもある意味友達と言ったらそうなのかもしれないが、お互いにきっと認めないだろう。
門田さんとも高校からの知り合いとどこかで聞いた事があるが、臨也が一方的に懐いているような雰囲気しかないので、本当に彼の友達は岸谷さんしかいないと私達は思っていた。
なので[自分達と同じ]と聞いて、双子は目を丸くしながら驚いており、私も[友達いたんだ]と心の中で呟いていた。
「俺は人間全てを友達だと、家族だと、恋人だと思ってるよ?それは今でも変わらないさ。だから、クラスメイトもみんな俺の友達さ」
『……痛い人の発言だね……』
解っていた事だが、それでもいざそう返ってくると何とも言えない気持ちになる。