折原家2

□楽しかった夏休み
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<楽しかった夏休み>


8月下旬

愛子視点


『あれ、二人共、真剣な顔してどうしたの?』

「夏休みのしゅくだい、まだおわってなかったー」

「あと、これとーこれとーこれがのこってた!」

『……残し過ぎじゃないかな。そんなに遊んでたっけ』


そろそろ二人の今年の夏休みも終わりを迎えようとしている頃―――双子は悩んでいるような顔をしながらソファに座り、テーブルに紙類を散乱させていた。

どうしたんだろうと気になった私は隣に腰掛けて問いかければ、眉をハの字にしながら口を開き、残った宿題をどう終わらせようか考えている様だ。

いつもなら定期的にテーブルに置いて、真剣な顔で宿題をしていたので今年もそうだと思っていたのだが―――

二人はもごもごと言いにくそうな顔をしながら[明日でいいやって思っちゃった]と白状する。


『あー……そういう事か。まあ気持ちは解らなくはないかも……』


長い長い夏休みだ。

今日やらなくても明日がある。明日やらなくても明後日がある―――そんな考えに到ってしまうのは誰にでも経験があるのではないだろうか。

私だって、旦那となった男に横で[やらなくてもいいよ]と言われながら出された課題をこなしていたし、

時々甘い誘いに乗ってサボってしまった事もあって―――そう考えるといい思い出だな、なんて思ってしまう。


彼に会う前なんて長い長い夏休みなんて地獄でしかなくて―――それでも、学校のクラスメイトに会わずに済むと思うと少しだけ気が楽だった。

まあ、自分に向ける罵声と暴力が少し減った、ぐらいなのだが。


―――懐かしく思えるぐらいには傷は癒えたのかな……。


「でしょー?でも、もうちょっとおでかけしたかったなー」

「あたしもー。パパのしごとが、いそがしいからってさー」

『ま、まあ……冬休みに期待って事じゃダメかな?』

「……ママが言うならがまんする」

「ぜったいだよ?やくそくっ」

『う、うん、約束するよ』


今年はあまり、夏らしい事をしていなかったような気がする。

子供達は外で汗を掻くまで遊んでいたし、何だかんだで楽しく過ごしていたようだが、家族で過ごす―――というとかなり少なかったように感じる。

旦那の仕事の忙しさやらスケジュールやらが合わなければ私達は家族で出かける、という当たり前の事すらできず、子供達は不満なようだ。

まあ私も満足か、と聞かれたら少し疑問に思う所もあるので、彼には残りの夏休みの日数を遊びに当ててほしいものだ。


「じゃあねー、パパがかえってくるまでママが先生ね!」

「先生っ、これおしえてー」

『え、ええええっ、待って……っ!ちょ、これ算数じゃんっ、私、算数苦手なのにぃいい』


私のなるかどうかも分からない言葉を信用したのか、切り替えた双子は宿題を終わらせるべく動き出したらしく、お気に入りのシャープペンを持って、ニコニコと問いかけてきた。

今現在、旦那―――折原臨也は出掛けており、聞いた話では粟楠会の四木さんに仕事の依頼を聞きに行く、ようだがそれがいつまでかかるのか解らない。

早くには帰るよ、とは言っていたが、何だかんだで四木さんとも長い付き合いなので色々な雑談をしている可能性とお互いの手の内を探り合うような話をしているかもしれない。


―――まあいいんだけどさ……。


彼がどんな話をしてようと家に帰ってきて、[ただいま]と笑ってくれるだけで全ての事情がどうでも良くなる。

毎日傍にいてくれるだけで満たされているが、更に欲を言うなら仕事の雑談やら関係無い話なんてしてないで早く帰ってきてほしい。
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