折原家2
□大きな台風
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<大きな台風>
数日前 新宿 某マンション
愛子視点
≪台風10号は発達しながら北上しており―――≫
家族で見ているニュースでは淡々とした口調でこちらに台風が向かっている事を伝えていた。
いつもなら別の方を通って関東地方にやってきたり、来なかったりしているのだが
今回はいつもとは違う進路で真っ直ぐこちらに向かってきているというのだから住んでいる人達からしたら怖い事だ。
前はどこかの地域で大雨が降って大変な被害が出たり、
40度という考えられないぐらいの気温になったりと異常な天候に人間達は成す術もなく、倒れないように対策をするしかない、というのが現状だ。
―――地球は大丈夫かな、なんて心配になっちゃうよね、こうなるとさ。
「ねえねえ、とうこう日の時、台風来るのかな?」
「台風来たら学校行かなくていいの?」
『うーん、多分行かなくていいと思うよ?危ないし……洪水とかになったら大変だもん』
まだこちらの方でそういった被害が起きていないので[危ない]という事しか解らないし、どういう風に避難したり、どのくらいになったら逃げなければいけないのか解らない。
何度かそういう経験をしていれば、避難指示が出る前に避難しておこうとか、このぐらいの食料と水を確保しておけば大丈夫だ、というのが解るかもしれないが、
何もかも初心者で大体の人間が[大丈夫だろう]なんて思っているのできっとここで災害なんて起きたらたくさんの人間が取り残されてしまうかもしれない。
「こうずいになったらどうしようっ!おふろとか入れなくなっちゃうんだよね!?」
「お外であそべないし、風でお家とかこわれちゃうんだよねっ!?」
「よく知ってるね。……人間が立ち向かう事すらできない相手、それが自然だ。
人間達は自分達が頂点だと思い込んでるのかもしれないけど、こういう時に人間ってちっぽけだなって思うよ」
『そういうのは認めるんだね』
「抗いようがないからさ。セルティや罪歌だって俺は自然とは別に認めてるよ。……確かにアイツらは清々しいぐらいに化物だ」
そういう彼の顔はあまりいい気分ではないようだが、自分がどうしようもないぐらいに人間だと言うのは解っているので僅かに皮肉を混ぜたような言い方をしている。
そんな父親を余所に双子は[台風来るかな][こわいけど、ちょっとドキドキするね]なんて話しており、ここは不謹慎だと怒るべきなのか、
子供特有の考え方だと放っておくべきなのか迷ったが、旦那は特に何か言うつもりはないらしいので私も放っておく事にする。
私も台風は来たら嫌だが、来る前はちょっとだけドキドキしてしまう。[非日常]の前触れのようで―――
きっと本当に台風が来て、この家にも住めなくなってしまったらそう思った自分を後悔するかもしれないが。
「ねえねえ!台風の時ってひなんするの?」
「学校に行くんでしょー?」
「そんなに大きい被害じゃなければ避難しなくてもいいよ。その方が助かる可能性もあるからね。……まあ、個人の問題だからする人間は早くに準備するだろうねぇ」
「じゃあっ、あたしたちもじゅんびしよ!」
「ひなんじゅんび!ね!」
「……話聞いてた?しなくても―――」
≪――――早めの避難を心掛けてください≫
「だって!」
タイミングを狙ってたかのようにテレビでは淡々とした声音で準備を促す言葉が聞こえ、それを聞いていた子供達は満面の笑みで父親に向かって口を開けば、溜息を吐き出しながら了承する。