折原家2

□女の影
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波江さんだって元は製薬会社の上の方の立場だったと臨也から聞いていたし、テレビでも女社長なども増えてきていると聞いた。

だからこそ、依頼人に会ってみたら女性でした、男性を装って連絡を取り合っていました、という事だってあるかもしれない。


―――ま、まだ分かんないもんね……っ!


―――――――……

翌日 早朝 某マンション

愛子視点


「今日、ちょっと遅くなるかもしれないから先にご飯食べてていいよ」

『え……な、何時ぐらいになりそう?』

「?そうだな、早ければ君達がご飯を食べてる時ぐらいかな。遅かったら……もしかしたら寝る前かもしれないねぇ」

『っ……ど、どうして遅くなるのか教えてくれる……っ?』


子供達にはできるだけ[浮気]について父親に聞かないようにしているので、二人は黙って朝ご飯を頬張っており、ソワソワと私達の方を見ながら何か聞きたそうだ。

だが、変に聞いて私の気持ちが落ち着かなくなるのも嫌だし、はぐらかされたらもっと気分が落ち込んでしまいそうなのでできるだけ、何も言わず、何も触れずにいてほしいのだ。


「?さっきからどうしたんだい?何か挙動不審だけど……狩沢さんに何か言われたの?」

『そういうわけじゃないんだけど……いつもは寝る前、なんて言わないからどうしてかなぁ、って』

「ああ、まあ珍しいよね。相手が結構ルーズな人でさ、いつ来るのか解らないから俺も困ってるんだよねぇ。こっちは予定があるっていうのにさ」


―――嘘、を言ってるようには見えないけど……嘘吐くのが上手な情報屋が相手だからなぁ……。


味方であれば物凄い戦力、というのか心理戦も簡単なのだが、今は浮気の疑いがある敵なので、言葉を選びながら疑問を投げかけなければならない。

裏社会の事は分からないのでどういう風に組織が成り立っているのか解らないが、時間が分からないぐらいにルーズな人と言うのはいるのだろうかと疑問に思う。

いくらルーズな人でも10分、20分ぐらいしか変わらないのではないかとは思うが、よく漫画などでは一日経っても来なかった、という人がいるのでそういうものなのかとも思えてしまう。


―――疑いたくないけど……やっぱり疑っちゃうよ……。


彼が[仕事]と言って出ていき、帰ってくると最初に感じた匂いがふわり、と臨也のジャケットから香り、またこの女と会っていたのかと恨めしく思ってしまう。

その人が今彼が言う[時間にルーズな人]の可能性もあるし、私が何も知らないと思って適当にでっちあげた嘘かもしれない。

それに匂いだって女の好きそうな香水の匂い、ってだけで男の人が付けている、という可能性だってあるわけだ。


―――頭が痛くなるよ……。


『大変なんだね……。熱中症に気をつけてね。外暑いし……部屋の中に居ても、なる事だってあるらしいから』

「それは君達だって同じだろう?それに俺より動くんだから気をつけないとダメだよ」

『うん、ありがとう』


―――匂いなんて……付けてこなければこんな気持ちにもならなかったのに……。


何気ない会話。

いつもの席。


何も変わらなければ、この会話だって楽しみであり、彼を待つ原動力となった筈なのに―――

何だか仮初めなもので塗り固められたかのような気分になり、きちんと心から笑えているのか解らない。

疑うつもりはない、臨也を私は心から信じてる―――だけど、弱い部分のどこかで不安を感じ、彼が[実はさ]と真相を話してくれるのを今か、今かと待っている自分がいる。
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