折原家2
□女の影
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コーヒー一杯ぐらいならば誰でも飲むだろうし、彼は人間観察が趣味なのでコーヒーを飲みながら趣味を楽しんでいた可能性だってある。
―――情報屋が相手じゃ、こんなの無意味かも……。
臨也は浮気調査だって気が向けばやるし、極秘に頼まれたものならば私達家族にだってバラさないだろう。
そんな相手の調査をしようとするのが馬鹿らしく、直接聞いた方がいいのかもしれないが、もしそれをはぐらかされた場合―――立ち直れなくなる可能性がある。
高校の時から臨也を愛し、彼の為だけに生きてきたこの10数年が全て水の泡になってしまいそうで―――彼がお風呂から出た後も、何も言えずに[日常]を過ごしていた。
―――どうしたらいいんだろう……。
―――――――……
数日後 池袋 某喫茶店
愛子視点
「イザイザが浮気ーーーーーっ!?」
『かっ、狩沢さんっ、声が大きいですっ』
そんなモヤモヤとした気持ちを抱える事、数日。
別に用事があったので池袋へとやってきて、いつもの集合場所のような感じで喫茶店へとやってきて雑談のように話をした後、
ついポロっと自分の不安を打ち明けると相手―――狩沢さんは目を丸くしながら、大声で驚き、本当に信じられないようだ。
「だ、だってだよ!?あんなに愛子っちラブみたいな感じなのに、浮気ってっ!誰でも驚くよっ!?」
『そ、そうかもしれませんけど……。……それにもしかしたら浮気じゃない可能性だって……』
「いや、断言できるね。イザイザは浮気してるっ!」
『え、えええええっ!?』
「愛子っち、声デカいよっ!」
『ご、ごめんなさいっ!?』
遊ばれているような狩沢さんの言葉に信じられなくなりそうになったが、彼女は僅かに真剣な顔をして指摘する。
「前はほら、情報屋としての立場ってものがあったわけでしょ?関わりたくないけど、関わらなきゃいけない事だってあったと思うっ、
でも最近は全然女の影ってものはなかったんでしょ?それなのに今になってそれが出てきた……黒ねっ!」
『そういう人と関わりを持たなきゃいけない仕事って可能性も……』
「そんなの断ればいいだけ!だけどそれをしなかったって事は、そっちの女の方がイザイザにとって有益になる、って思ったからよ!」
『……それは……凹みますね……』
彼にとってどういう基準で仕事を選んでいるのかは解らないが、狩沢さんの言っている事も当たっていると思う。
もし本当に私や子供達に遠慮ややましい気持ちがあるのならばその仕事を断ってしまえばいいだけの話だ。それだけの権利はあると思う。
それなのに―――ハッキリと口にされると不安が更に大きくなり、グラスの中の氷を見つめる。
滑るように氷がカラン、とグラスの音を鳴らし、幸せというのはこの氷のように滑り落ちて行くのか、と実感させられる。
10年以上、何事もなくとも言えないが幸せに幸せに―――今までに味わった事がないぐらいに誰かに愛してもらい、この幸せが死ぬまで続いたらいいな、なんて思っていた。
―――そんな事、ないんだね……。
永遠なんてない。
テレビでやっていたし、臨也もそう言っていた。
だからこそ、私の幸せはここで終わりなのかもしれない。
「そんなに落ち込まないでよ。黒だって言っちゃったけど、愛子っちは信じてないんでしょ?」
『……はい』
「それならそれを信じればいいよっ!私だってイザイザの全部を知ってるわけじゃないし、止む負えない事情だってあるんだろうしさ!
大丈夫、もし離婚って事になったら私達が纏めて面倒見てあげるから、安心して!」
『……ありがとうございます、狩沢さん』
女の人に近付く仕事なんてどんな仕事なんだ、と言いたくなるが、今は女の人が有能な時だってある。