折原家2

□今年の夏は
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<今年の夏は>

新宿 早朝 某マンション

愛子視点


「ママっ、早くクーラーつけて―」

「あつーいっ」

『本当だねー。ムシムシする……。……ってあれ?あれー?』


本格的な夏になってくると問題になるのが自分達の部屋は涼しくても昨日のうちに止めてしまう、旦那の事務所兼リビングのクーラーであり、子供達が真っ先に暑がって言う言葉である。

私もそれは解っているし、自分も暑いのでリモコンはすぐに準備できているのだが―――何度電源をONにしてもクーラーの排気音というのか、付いた音が聞こえない。

リモコンの画面は確かに設定された温度であり、付いている筈なのだが、全く涼しくならず、ムシムシとした密封された暑さが額に汗を見せる。


―――こっ、壊れた……?

―――どうしよう、これ……臨也に怒られるのかな……。


私はリモコンのボタンを押しただけなのだが、もしかしたらそれが最後の一押しになってしまった可能性も高く、

別の汗が頬を撫でつつ、[あつーいっ]と訴え続けている双子を放置しておくわけにもいかないので―――


『ご飯できたら二人のお部屋に持って行くから二人はお部屋で準備しててくれる?』


まだクーラーが使える部屋に居た方が二人も楽だと思い、そう言ったのだが首を振って[あたしもおてつだいする]

[ママだけあついでしょっ]と言うので泣きそうなぐらい嬉しくなりつつ、1階へと下り、4人分のご飯の準備を始めた。


―――あっつ……。

―――クーラーがどれだけ私達の生活に必要なものなのかこういう時に解るね……。


火の近くにいるとサウナにいるかのように暑く、朝ご飯を作るだけで気が滅入りそうなのでできるだけ離れたのだが、結局は部屋の中自体が暑いのであまり意味はないかもしれない。


「せんぷうきないのー?」

「せんぷうきあれば、すずしいでしょ?」

『……扇風機、見た事ないんだけど……』


何か涼めるものをないかと子供達も探しているようで、キョロキョロと周りを見渡しながらそう言うが、確かにこの家にはクーラーよりは性能は落ちるが、

それでも夏のお供の扇風機が見当たらず、ここに来てから今まで一度もこの家に扇風機があった事がなかったかもしれない。


「えええええ……っ、何で見たことないのっ!?せんぷうきひつようだよっ」

「こんど、パパにせんぷうきかってって言わなきゃダメだよっ」

『本当だね……でも、まさかこんな事になるなんて思わなかったから……』

「……こんな事?何でこんな暑い中、クーラーも付けずに作業してるんだい?」

「「『パパっ!』」」

「?」


夏は殆どクーラーに頼りっぱなしであり、扇風機は殆どこの家で出る幕はなかったのだが、確かに1台ぐらいは必要かもしれない。

扇風機の購入を検討しつつ返事をしていると起きてきた旦那が欠伸をしながら疑問を浮かべており、

やっと家主の登場だとばかりに向かえれば、首を傾げてこの状況が理解できていないらしい。なのでクーラーが壊れた事を説明すれば僅かに顔を曇らせ、考え事をしている様だ。


『……パパ?』

「……とりあえず業者には連絡しておくよ。それまでは各自の部屋で過ごす事だね」

「パパたちのおへやに行っちゃダメー?」

「ねるまでー。ねー?いいでしょー?」

「……。……まあ仕方ないか。この部屋で過ごすわけにはいかないから」


―――本当に不本意、って感じ……。


あまり他人を自分の領域内に入れたくない旦那。

私ですら同棲していても別の部屋で、結婚してやっと同じ部屋になったぐらいなのだ。いくら血の繋がりがある子供達でも、あまり入れるのは気分が良いものではないらしい。
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