折原家2

□梅雨の日は
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そう言うと僅かに眉を寄せ―――


「俺が男だって事を忘れてないかな。荷物ぐらい君以上に持つ事だって、担ぐ事だってできるんだよ?」


と言いながら子供達の頭を撫でた。

確かに頼りにはなるが、折角濡れた彼の服を着替えさせて新しい服にしたのにまた濡れてしまっては洗濯物が増えるだけなのだが、

臨也は行く気満々なのか子供達と一緒になって準備を進めているので溜息を吐き出し、まあいいか、と思う事にした。


―――こういう時の為に乾燥機があるんだし……。


本当にこの家はどんな生活をしていたのか解らないぐらいに使ってない新品の物が多く、未だに使いこなせないような物が出てくるのではないか、と思うぐらいには充実している。

乾燥機もその一つであり、雨の日の本当に使わなければいけない時ぐらいしか機能していない機械である。

そして、梅雨の日に一番機能するものであり、私の服や臨也の服が少なくて済むのはこういった機械がある故であり、とても助かっている機械でもある。


「パパっ、トイレットペーパーかわなきゃいけないんだよ!」

「あとねー、ティッシュっ!」

「お前達はママが欲しいものが解るんだねぇ」

「うんっ、ママがトイレットペーパーがなくなるーって言ってたもんっ」

「ティッシュもよくなくなるから、いっぱいひつようなんだってー」

『やっぱり家族2人と4人じゃ消費量が全然違うね……』


傘を差しながら4人で歩く私達。

久しぶりの家族での買い物に双子は傘を放り投げるのではないかという程に嬉しそうに歩いており、臨也も心なしか嬉しそうだ。

そんな嬉しいという感情がこちらにも伝わってくるので思わず私も口元が緩んでしまいつつ、子供達がいなかった頃の事を思い出す。

大人2人、と言っていいのか、大人と子供と言っていいのか、2人で暮らしていた頃はティッシュだってトイレットペーパーだってそこまで減る事はなかった。


必要最低限にしか使う事はないし、時々何かを零して拭いたり、鼻をかんだり、

口を拭いたりするぐらいで4箱あれば何ヶ月分だ、というぐらいだったのが、子供達が生まれるとその消費量が倍以上になった。


何かあればすぐにティッシュを使うし、ティッシュが出てくるのが面白いのか、空になるまでティッシュを引き抜いた事もあるし、

悪い事がよく分かっていなかった時に悪戯なのか、それとも面白い遊びでも見つけたのか、

トイレに並んだトイレットペーパーを器用に手に取ってコロコロしながら芯が見えるまで転がし、それに気付いた臨也があまり見た事のないタイプの驚き方をしていたのが印象深かった。


―――成長したよ、うん……。


そんな昔の話を思い出しながら歩いていると子供達はいつもの通り道に咲いている花に駆け寄っていき、[かたつむりいるかなー]と覗いている姿は可愛らしく、

気付いたら携帯を片手に持っており、[その携帯は何かな]と臨也に言われて気付いたぐらいだ。


『いやあ、ね?思い出に撮っておかないとなーみたいな?』

「……本当に好きだねぇ。そのうちコンテストにでも出したらどうだい?」

『やだよ。……これは私の宝物なんだから』


歳を取ってまだ携帯が使えるか解らないが、昔の人がフィルムで写真を現像していたみたいに携帯で子供達が小さい時の事を臨也と一緒に日向に座りながら話し合いたい。

子供達がティッシュやトイレットペーパーで遊んでしまった事を、まだ上手く使えなかった箸が上手く使えるようになった事を、思い出したい。

私達が忘れてしまっても、機械がきちんと覚えててくれるならば、それはきっと写真を現像するのと同じように振り返れる。
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