折原家2

□梅雨の日は
2ページ/9ページ

確かに仕方ない事かもしれないが、彼が拾ってきてしまうと子供達や私に移るかもしれないので必要最低限の対策はして欲しい、というのが本音だ。


「でも、パパのいざっていう時っていつー?」

「あんまりとーとのマスクしてるところ、見たことないよー?」

「そうかな。結構多いと思うけど。……それにしても、梅雨って言うのは面白味がないよねぇ」

『そう?私は結構面白いと思うけど』


臨也のように本降りになりだした雨を避ける為にどこかに雨宿りしようとしている人。家が近いのでそこまで走ろうと頑張っている人。

諦めて濡れて歩いている人。そんな人達を見つめながら、他人事だと傘を差しながら歩いている人達―――

そんな人達がこのマンションから見え、臨也ではないが、[人間]という種族に分かれていてもそれぞれの反応が違っていて面白い。


それに子供達と買い物に行く為に歩いていると誰かが植えたのか、季節の花が色とりどりに、

それでも雨に負けないように咲き続けており、双子が[かたつむりいたっ]と小さな虫を見つけて教えてくれる。

確かにジメジメしていて、雨ばかりで、食品はすぐに駄目になってしまうがそういった、その季節にしか見られない風景が見られるので、梅雨は嫌いではない。


「君の面白いには賛同しかねるよ。君なら生ものがすぐに悪くなるから嫌い、って言うと思ったのに」

『そういう所は嫌いだけど……パパの濡れた姿が見られるから梅雨は嫌いじゃないよ』

「何それ。……君の考えは今でもよくわからないよ」


上から下までぐっちょりと濡れてしまった臨也も、今日みたいに少し濡れていつも横に跳ねた髪が大人しくなっている彼の姿も

[突然の雨]というシチュエーションがなければ見られるものではない。まあ濡れている姿、というだけならお風呂で見ているのでそんなに珍しいものではないのだが。


―――それとはちょっと違うんだよね。

―――……限定ものの特典を見た時と同じ感じ?


通常版と限定版とでは中に入っている物が違う、という興味ない人なら良く解らない例え方だが、臨也が雨に濡れたのとお風呂から出て髪が濡れたのとではほんの少し違うのだ。

死ぬまでにコンプリートを目指す私としてはこういった少しの彼の違い、というのも見逃せず、梅雨の時は[ありがとう、貴方のおかげだよ!]という気分にもなれる。


『パパはいつも通り、可愛いって事だよ』

「??」

『それよりっ、今から買い物に行ってくるね』

「……結構雨、降ってるよ?今日ぐらい出前でも俺は全然構わないよ」

『そう言ってくれるのは嬉しいけど……明日の朝ご飯も、何にもないから買ってこないと』


甘やかしてくれるのは嬉しいのだが、ないと困るものもないし、消耗品も僅かにだが少なくなってきているし、

日用品も買い足しておきたいので私の選択肢に[出前で済ます]というものはなく、窓を見てどうやって行こうかと考えた。

雨に濡れるのは嫌だし、臨也にあんな事を言いながら自分が風邪を引いたら意味がないし、子供達だって論外だ。

そうなってくると傘をさして極力濡れないようにしながら買い物に行くしかない。どう行けば近道になるのか、長年使っているスーパーの地図を頭の中に描いていると―――


「俺も行くよ。荷物が多くなったら人手が必要だろう?」


そう言って立ち上がる臨也。

確かに一人で持つには限りがあるだろうし、子供達に持たせるのも限界があるので嬉しいのだが、

臨也だって傘を差さなければならないのは同じなのでいてもいなくても変わらないような気がする。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ