折原家2
□梅雨の日は
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<梅雨の日は>
6月中旬 新宿 某マンション
愛子視点
「雨、やまないねー」
「あそびたかったのになぁ」
梅雨になると毎年のように吐き出されるこの言葉。
小学生になってからは更に増え、雨になる度に同じ言葉を同じように吐き出し、溜息を吐いている双子。
二人も毎年の事なので分かっている部分も多いとは思うのだが、やはり頭と気持ちでは色々と違うらしい。
―――仕方ないけどね……。
どうにかしてあげたい所ではあるのだが、天候は例え凄腕の情報屋でも、化物のような怪力を持った人間でも、
異形と呼ばれる都市伝説でも、妖刀と呼ばれる存在でもどうにもできない。
梅雨があると困るのは主婦である私も同じなのだが、遊ぶのと勉強が仕事のような小学生にとっては[雨が降る]というのはとても大事な事なのだ。
外で遊べない―――というのが一番の原因で、もし雨に濡れながら遊んだとしたら子供達の母親から怒られるし、最悪風邪を引いてしまうかもしれない。
なので部屋の中で遊びなさい、と毎回のように言うのだが―――
「あーそーびーたーいーっ!」
「おーそーとーいーきーたーいーっ!」
声を大にしながら部屋の中を転げまわるのではないか、と言う程にソファの上で二人で同じようにウネウネ動いており、こういう所は子供らしくて可愛い。
「……お前達、ママを困らせて嬉しいかい?」
「あっ、パパだ!」
「とーと、おかえりー!」
『おかえり。雨どうだった?』
そんな二人の動きを見つめながら[はいはい]と軽い気持ちでお腹をポンポンと叩きながら双子の相手をしていると
僅かに濡れた旦那が事情を知らないので僅かに眉を顰めながら問い掛けたが、無視するように飛び起き、ニコニコしながら父親を見つめている。
「結構本降りになったきてたよ。行く前はそんなに降ってなかったら傘は必要ないかなって思ったんだけどねぇ」
『ちょっと待ってて。そのままじゃ風邪引いちゃうかもしれないからっ!二人共、パパの事見ててね!』
「「はーいっ」」
それほどベタベタに濡れたわけではないので急いでお風呂に入らなければならないというわけではないのだが、
部屋の中は暑くない程度のエアコンが既にかけられているので、身体が冷えたら風邪を引いてしまうかもしれない。
そうならないようにタオルと念の為着替えを持ってくる為に立ち上がって2階の寝室へと向かう。
「ねえ、さっきママを困らせてただろう?何をしてたの?」
「?……お外雨だからあそびたーいって言っただけだよ?」
「お外行ったらパパもママもおこるでしょ?」
「……ああ、お前達のいつものあれか。まあ梅雨なんだから仕方ないってそろそろ覚えなきゃいけないんじゃない?」
「えええっ、だってだって……あそぶやくそくしてたのに、雨になっちゃったからあそべなくなっちゃったんだよー?」
「とーと、お外はれにしてっ」
「いくら俺でも、天気は操れないさ。気長に晴れになるのを待つしかないよ」
『パパ、遅くなっちゃってごめんねっ、寒くなかった?』
「そんなに濡れてないから大丈夫だよ。君は心配性だねぇ」
下では子供達の声と旦那―――折原臨也の声が聞こえ、ツッコミを入れながらタオルと着替えを持って行くとそれを受け取り、
タオルで髪を拭きながら笑う彼の姿に[当たり前ですぅ]と口を尖らせながら言葉を吐き出す。
「とーと、弱いもんねーっ」
「すぐかぜ引いちゃうもんねーっ」
「……人と接する機会が多いからねぇ。俺にはどうしようもないよ」
『毎回マスクする、とか』
「情報屋、折原臨也がマスクって恰好がつかないじゃないか。いざと言う時にしか使わないよ」
からかうように笑いながらそういう双子に苦笑しながらも[仕方ない事]として溜息を吐き出している。