折原家2

□近付く女の影
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「……お、折原さんは、そういう相手作らないんですか?」

「どうでしょうね。……私も、春風さんと同じだと思いますよ。きっとこのまま歳を取って、一人寂しくどこかに消える。それが私らしいのかもしれませんけど」

「そ、そんな……」


相手はどうしてそこまで自分の評価を落とす事ができるのか、それが解らなかった。

顔が整っていて、裏社会にしろお金を持っていて、清潔感もあって―――絶対に世の女性達が放っておくわけがないと思うのだが、相手は[買い被り過ぎですよ]と笑う。


―――それなら……私が貰っていいのだろうか。

―――こんなに綺麗な人を独り占め、していいのだろうか。


コレクションのように、この綺麗な男を自分のものにできたらどれだけ素晴らしいだろうか。

どんな人間にも、どんな女性が来ても自慢して[これは私のものだ]そう言えたとしたらきっと自分は優越感でいっぱいになるだろう。

そんな気持ちで、それでもちょっとした冗談で―――


「今度、折原さんの家に資料を取りに行ってもいいですか?確か、四木さんの話だと新宿の方に事務所があるとか……」


そう言うと彼は何の躊躇いもなく、[喜んで]と言うのでこっちの方が驚いて目を見開いてしまった。


「貴女が誘ったのに貴女が驚くんですね。面白い人ですね、春風さんって」

「っ……笑わないで下さいっ」

「すみません、でも、そういうのはとても大事だと思いますよ?人間、感情の変化は大事ですから」


―――――――……

数日後 新宿 某マンション

愛子視点


『……何かご機嫌だね?』

「まあね。ちょっと面白い人間がいてさ。彼女がこれからどう動くのか、楽しみで仕方ない、って感じかな」

『……かーのーじょー?』

「……そんなに怒らないでよ。新羅に似てきたと思ったら今度はシズちゃんかい?止めて欲しいな、シズちゃんに似るだけは」

『臨也が悪いんでしょっ!罪もない人を弄んで……可哀想に、その人』


鼻唄でも歌い出しそうな旦那の姿に好奇心で問いかければ、聞き捨てならない言葉が吐き出されて―――

思わず地を這うような声を出せば、相手は苦笑しながら天敵の姿を思い出したらしく、不愉快そうに首を振った。

相手―――折原臨也が何を考えてその人と絡んでいるのかは解らないが、結果は手に取るように分かり、臨也と関わって可哀想に、心の底からそう思った。


彼の事を知っていれば少なからず、被害は防げたかもしれないが、

知らなければただの仕事ができて口が達者なイケメンだ、ちょっといいな、そう思ってしまったら既にその時点でおしまいだ。


―――御愁傷様……。


「……君ってヤキモチとか焼かないわけ?旦那が浮気しそうになってるのに相手の事を心配するなんて」

『……すっごくしてるよ。だから彼女、って聞いた時にあんな声が出たんだよ?』

「いやあ、愛されてるねぇ。……まあ心配しないでよ、俺はきっと……愛子以外の人間を本当の意味で愛する事なんてできないんだから」


―――――――……

数十分後

楓子視点


「お、お邪魔しまーす……」

「久しぶりですね。お元気でした?」

「はい、あれから色々と大変でしたけど……」


彼と連絡先を交換して―――お互いに仕事の連絡を取り合う事、数日。

やっと私が冗談半分で言った言葉が叶う事となり、住所を教えてもらって向かった折原さんの事務所。

やはり情報屋と言うのは儲かるのか、教えてもらったマンションはとてもじゃないが、

ただバックに粟楠会がいる、というだけの人間達が住める場所ではなく、どこもかしこも高級感に溢れていた。
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