折原家2
□近付く女の影
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注意書き
春風楓子‐ハルカゼフウコ‐がオリキャラとして登場します。ご了承ください。
<近付く女の影>
池袋 某事務所
楓子視点
「初めまして、春風楓子と申します」
「初めまして、折原臨也です。確か、四木さんの……」
「はい。……それでですね、依頼と言うのは――――」
私達のバックとも言える粟楠会の四木さんから紹介された男。
とても腕のいい情報屋と聞いてどんな人間かと楽しみに待っていると扉から案内されて入ってきたのはスラリとした上から下まで真っ黒な男だった。
ニコリと愛想よく笑う姿が印象的で、それでも誰にも心を許した事はない、誰も信用しない、そんな雰囲気を振り撒いており、
綺麗な男性だとは思ったが、あまり手を出さない方が身の為だとこの時はそう思った。
こういった男は女には困っていないだろうし、付き合っている彼女の一人や二人、いてもおかしくはない。だが―――
「残念ながらこの歳でそういった相手はまだいないんですよ。難しいですよね、結婚とか人付き合いって」
そう苦笑する男。
だが、確かに彼の印象からすると付き合ったとしても長続きはしないだろうし、女の方から別れを切り出されるか、自然消滅か―――そういったケースが多いのだろう。
―――勿体ない。
―――こんなに綺麗な人なのに。
整えられた綺麗な髪。それでもふわりと重力に逆らうかのように浮いた猫の毛のような毛先。
目の色は日本人でも、世界中探しても少ないであろう綺麗な赤色の目をしており、まるで血液をそのまま映し出しているかのようだ。
スラリと伸びた長い手足。この人がモデルか何かを副業でやっています、と言われても信じてしまいそうな足の長さと手の長さ、そして指の長さに自分と比べて悲しくなる。
肌の色も色白と言ってもおかしくない程の白さを保っており、余計に年齢が若く見えてしまうかもしれない。
見た目だけならそこら辺の男なんて目ではない程に浮いた存在だが、本人はそれを隠すかのように上着から中に着ているVネックからズボン、
そして靴まで黒で統一しており、ある意味ではもっと目立つ存在になってしまうかもしれない。
―――色々な仕事をしてきたけど……ここまで綺麗な人は会った事ないなぁ。
―――実在するんだ……。
芸能人ならばもっとたくさんいるかもしれないが、少なくともこうやって面と向かって話す相手ではないし、テレビの中の人というイメージなので、もしかしたら初めてかもしれない。
確かに美人、イケメンと呼ばれる人間はいるし、街を歩けば、ネットを見れば存在しているが、
そういった相手とはまた違った雰囲気を醸し出し、一部の人間ならば彼の見た目やこちらを納得させるような口ぶりに宗教のように信仰してしまうかもしれない。
「春風さんはいないんですか、そういった相手は」
「残念ながら。でも……後悔はありませんよ。一度裏切られて、拾われた人間ですから」
「……そうですか。きっと大変だったんでしょうね」
「……はい、まあ。もし拾われなければ今頃路頭に迷って、最悪死んでいたかもしれませんし……」
「こういうのを[運が良かった]って言うんでしょうね」
「……そう、ですかね。なので、私はきっとこの先もこのままなんだと思います」
そう、きっと年をとっても私はこのまま―――だが、ほんの少しだけこの目の前の男とならばこの裏社会で一緒に生きていけるような気がした。
同じ四木さんという人間から雇われた情報屋、そして一つの情報を手に入れる為に紹介された私。
共通点があれば、人間は仲良くなれる。話をする事ができる。こんなに綺麗な男と―――1夜の過ちを犯しても許されるかもしれない。