折原家2
□彼女がいない日
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子供達の事を波江さんだって大事にしてくれている。
そんな二人が大泣きしながら臨也にしがみ付き、[行かないで][やだっ]と言い続けていれば流石の波江さんも子供達に賛成するしかないのだろう。
まあ波江さんの本音からすれば、うるさい臨也が3日もいなくなってくれた方が嬉しいのかもしれないが。
―――あれ、それだったら言ってる事って全部本音……?
―――……ま、まあ波江さんだし……。
「とーと、どうしても行っちゃうの……?」
「行かないで、っておねがいしてるのに?」
「……ごめんね。お前達にはどうでもいい事かもしれないけど俺にとってはとても重要な事なんだ」
「じゅうよう……?」
「ぼくとか筑紫とかなみえさんより?ママよりももっとじゅうよう?」
「……それを言われると少し困るかな」
「じゃあっ、行っちゃダメっ!」
「じゅうようじゃないなら行っちゃダメーっ!」
―――めっちゃこっち見てる……。
天秤にかけているのだろう。
こうやって泣いている子供達や淡々と話している波江さんよりは重要で、私と比べると困る彼の用事、
というのはなんだろうかと思うが、臨也の趣味や仕事、性格など知っているのできっと今回もその絡みなのだろう。
趣味と言うのはその人にとっては生きていくのに重要なもので、他人にはその価値がなくとも、
その人にとってはかけがえのないものだってあるのだから全てを否定する事なんて誰にもできない。
なので私は臨也の趣味を否定しないし、私達を大事にしてくれているのならばそれ以外は何も望まない。
周りから馬鹿にされようと、否定されようと私は[折原臨也]という人間を好きになったのだから。
『……全く。私はいいよ、って言った筈でしょ?本当は私達に傾いて欲しいけど、仕方ないから今回は譲ってあげる』
「君ならそう言ってくれると思ったよ。いやあ、持つべきものは理解のあるお嫁さんだねぇ。そういう事だからさ、ごめんね、お前達」
「ママのばかぁあああ!」
「何でっ、何でそんなこと言うのぉおおっ!?とーと、行かない言ってくれたかもしれないのにっ」
『二人とも、パパにだって時々一人になりたい時だってあると思うんだ。ずっとママや筑紫や紫苑や波江さんと一緒にいるのは疲れちゃうでしょ?』
「……つかれちゃうの?」
「……ぼくたちのこと、きらい?」
「嫌いじゃないさ。寧ろ目に入れても痛くないぐらい愛してるぐらいだよ。ママにだって息抜きが必要なのは解るだろう?
それと同じで、パパにだって息抜きがしたい時だってあるんだよ」
あまり嘘は吐きたくないのだが、彼にだって予定があってその時間に家を出て出掛けるつもりだと思うので、仕方なく臨也に抱き着いている双子の所に行き、
頭を撫でながら優しく嘘を吐くとゆっくりと顔を上げて首を傾げながら父親の顔を見つめている。
臨也も私の意図に気付いたのか、それともいい嘘が見つかったのか解らないが優しく笑いながらきちんと説明と言う名の嘘を吐き出せば、
一瞬躊躇っていたようだが、口を潰すように力を入れて堪え、母親を求めるように両手を広げ、私の方に抱き着いた。
『遅くなったら許さないからね』
「早くなる事はあっても、遅くなる事はないさ。何か面白そうなものがあったら君達にプレゼントするよ。どんなものかは帰ってきてからのお楽しみ、って事で」
『そういうものをプレゼントされるより……一日一回、電話してほしいな。それで、パパが元気だって教えて欲しい……』
「……分かったよ。子供達が起きてる時間に電話できるようにしておくよ」
口を閉ざし、それでも行ってほしくないのか泣いている声が聞こえ、こんなにも臨也を求めている人間も少ないだろうな、なんて他人事のように考えた。