折原家2
□ばれんたいんでー
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終わったんですけど、書きたかった話でも。
<ばれんたいんでー>
2月上旬 某マンション
愛子視点
―――もうそんな時期かぁ……。
テレビでの特集を見て、そう思う。
つい最近まで年を超え、おせちや雑煮などを飽きるぐらいに食べていたかと思えば、既に2月となり、
今年はどんなチョコをプレゼントするのか、どんなチョコが人気なのかという番組までやるようになっていた。
ここには旦那も子供達もいなくて、秘書である波江さんも弟のチョコを選ぶ、と言って午前中には出掛けてしまったし、旦那も粟楠会と話があると言って出かけてしまっている。
なのでテレビを見ながらボーっとしているのは私一人であり、もうすぐ[バレンタインデー]という事実を知っているのも家族の中では私だけだという事だ。
―――今年はどんなチョコにしようかな……。
―――難しいのは作れないし……定番はトリュフとか生チョコだよね……。
携帯やパソコンで作り方を調べたりすると、これは何語ですか、と言いたくなるぐらいにカタカナが多く羅列し、
頭が痛くなるので簡単なものを作ろうと思うのだが、そういったもので彼は喜んでくれるのだろうか。
あまりお酒が入っているのは仕事上、止めた方がいいと思うし、酔っぱらって大変な思いをするのは私も彼も同じなのだ。
―――……子供達もいつか、好きな人の為にチョコを作ったりするのかな……。
簡単な、それでも手間がかかっていそうなチョコの作り方を見ながらそんな事を思った。
まだ二人共、恋や愛などよく分かっていないだろうし、好きだ好きだと言っても、やっぱりそれは私が感じているものとは違うのだろう。
だが、歳を取ればそう言った事も解るようになり、[好きな人の為に]と顔を赤くしながらチョコの作り方を調べたりする娘の、
今年はチョコを何個貰えるかとモダモダしている息子の姿が見えるのだろうか。
いつまでも[ママ、だいすきっ]と太陽のように笑う子供達の姿ではいられないのは解っていてもやっぱりちょっとだけ寂しい。
―――……臨也はどうかな、私と一緒の気持ちなのかな……。
子供達からチョコが貰えなくなるかもしれない、という状況を彼はどう考えているのだろうか。
大きくなったのだから仕方ない、と父親の鏡のように大きな懐で笑うだろうか、子供のように嫌がるだろうか。そんな想像をするだけで心が満たされてしまう。
単純だな―――なんて思っていると玄関から鍵を開ける音が聞こえ、誰だろうかと思っていると、数秒前に私の心を満たしてくれた相手が何やら紙袋を持って帰ってきた。
『おかえり……どうしたの、それ』
「ただいま。さあ?俺も良く解らないんだよねぇ」
『よく、解らないって……貰って来たのは臨也でしょ?』
「まあそうなんだけどさ。四木さんが、っていうか粟楠会でちょっと早いバレンタインデーがあったらしくて、ついでだからってそのまま渡されたんだよ」
『ついで、って……。ていうか、そういう所もバレンタインデーとかあるんだ……』
あまり世間の事や季節の行事などは関係無いように思える裏社会にもバレンタインデーなんてあるんだと驚きと言うのか、
新しい事を発見したかのような言葉を吐き出すと[そこにもよるんじゃないかな]とニコリと笑う。
「ほら、あそこには娘さんがいるからそういう事には敏感なんじゃないかな。それに……女関係にもね」
『……ザ・裏社会って感じだね……』
「まあ距離を置いていればそこまで怖くはないさ。その距離感を誤らなければ、ね」
あの人達が何を考え、どう生活しているかなんて私には想像できないが、彼の言う通り、いつも通り生活し、目の前にいる相手―――
折原臨也や子供達と慎ましく生活していれば、それ程恐れる存在ではないのだろう。