折原家2
□小さな生命
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<小さな生命>
新宿 某マンション
愛子視点
―――少しずつ、少しずつ私のお腹の中で育ってるんだね。
3人目ができたのが解ってから少し経って、ほんの少しずつお腹の中で大きくなっていくのが解る。
双子ではない分、身体の負担は小さく、気持ち悪さも吐き気もないとは言えないが、あまり感じず、楽と言ったら世の中の妊婦さんに怒られそうだ。
双子の時は初めての妊娠という事もあったし、二人が生まれる前から元気だった事もあるのかとても大変だったのを覚えている。
まだそれほど時間は経っていない筈なのに、二人や旦那との時間が1日1日の密度が濃い為、物凄く長く感じた。
たくさんの時間、たくさんの出来事―――忘れられない私の宝物がたくさんできて、3人目の子供にもそれをちゃんと伝えられるだろうか。
貴方のお兄ちゃんやお姉ちゃん、父親はこんなにも素敵な人達なんだよ、そうちゃんと伝えてあげたい。
「?ママ、どうしたのー?」
「?おなかいたいのー?」
『……ううん、そうじゃないよ』
お腹を優しく撫でる私を見て、まだ自分達に弟か妹ができた事を知らない双子は不思議そうにこちらを見つめており、[だいじょうぶ?]と心配そうに私の両隣に腰掛けている。
気持ち悪さや吐き気が少ない分、二人が心配する事は同じだけ少ないので、隠しているわけではないのだが、言うタイミングを完全に見失っているのは否めない。
きちんと話して、もう二人は今のままの甘えん坊ではいられないんだよ、そう言いたいのだが可愛い可愛い二人が
[ママっ]と呼んでくれる度に、甘えん坊な姉と兄でもいいのではないかと思ってしまう。
世の中ではどういう風に姉や兄を育てているのかは解らないが、口癖のように[貴女はお姉ちゃん、お兄ちゃんなんだからしっかりしなさい]と言うのはテレビや漫画から得た情報だ。
そんな風に二人を叱りたくないし、姉や兄だって母親や父親に甘えたい事だってある。それなのに口だけで[貴方はお兄ちゃん、お姉ちゃんなんだから]なんて言いたくない。
―――私が1人だからかな……。
記憶では私と両親の3人暮らしだったので、姉や兄、妹や弟と言う感覚は解らず、上に下にいたら何かが変わっていたのだろうかとも考えた事はある。
旦那と結婚し、義理ではあるが双子の妹達ができ、姉妹というのはこういうものなんだなとは思ったがやはり二人は義理で、
自分とは血が繋がっていないので命を懸けて二人を守りたいか、と言われたら返答に困ってしまう。自分の血を分けた子供達はどんな事があっても守ってあげたいし、
自分が身代わりとなって助かるぐらいならいくらでも身代わりになれるぐらい二人の事を大事にしているつもりだ。
―――臨也なら何か解るのかな……。
『ねえ、パパ。ちょっといい?』
「?」
『……もし、九瑠璃ちゃんや舞流ちゃんが死にそうな時、パパならどうする?』
「唐突な質問だね。……じゃあその時って言うのはどういう状況かな。それにもよるね」
『え、うーーーん……誰かに誘拐されて、パパが二人を助ける為のお金を出せ、って言われてその人の所に行ったら血だらけの二人がいた、みたいな……』
「……漫画やドラマの見過ぎだよ。あまり今の時代、そういう事は少ないんじゃないかな。まあ0とは言えないけどねぇ」
『じゃあその0じゃない時、パパならどうする?』
いつもの席に座って休憩中なのか、肘掛けに肘を置いて趣味の人間観察をしている旦那に小さな声で問いかけると私の質問に興味があるような顔でこちらに目線を向けた。