折原家2
□初心忘れるべからず
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―――どうしようもない奴ね。
ケーキを食べ終わってから話をするのかと臨也が設置したタイムカードを切ってからも世間話をするかのように愛子と話をしていたのだが、
一向に彼女に話しかける様子もなく、仕事に集中しています、とばかりにパソコンの画面を見つめている男。
自分がいるから言いにくいのかと思い、席を立って[お手洗い、借りるわね]と一言告げ、この場を離れたのだが、
聞えてくるのは今日はどんな所に行ったのか、何をしていたのか、といういつもあるような会話ばかりで、確信を突いた言葉は全く聞こえない。
こちらから聞いた方がいいのではないかとも思ったのだが、これは一応夫婦としての問題であり、部外者である私が関わるのはどうかとも思う。
それにもし臨也と離婚、という事になったとしても彼女を好きになって心から愛してくれる人間はきっとすぐ近くにいる。
それに別れたらきっと彼女を心配している友人達も落ち着いてその人間との愛を応援できるだろう。
―――ここから彼女が出て行くのは少し寂しいわね。
何だかんだでずっと臨也の愚痴を言い合っていた仲だ。
そんな相手がいなくなってしまったら、誰に溜まったものをぶつければいいのだろうか。できるなら浮気は嘘だった、と言われた方が気が楽になれるのだが。
『……ねえ、臨也?』
「?」
『……私がいなくなったら寂しい?』
「勿論だよ。俺は君を愛してるからね。愛する君がいなくなったら寂しいのは当たり前じゃない?」
『そうだよね、ごめんね。変な事聞いて』
「……何かあるならハッキリ言ってくれた方が俺としても有難いんだけどなぁ」
『ないよ、ないないっ!ちょっとだけ気になっただけ!』
「そう。それならいいんだけど」
―――……情報屋が騙されてどうするのよ。
それから数十分後。
動き出したのは愛子の方であり、何か意味深な事を口にするが、男は特に気にしていないと言うのか、気にしながらも遠回しに今日の事を言葉にするが、
相手も10年以上嘘を当たり前とする臨也の近くにいたので男の変化に気付いている様だが、大きく首を振って否定すれば、簡単に信じてしまっていた。
確かに彼女は嘘が苦手だ。
顔にすぐに出るし、言動だっておかしくなる事もある。だがそんな彼女がもし、本気で隠し通したい嘘があったとしたら―――臨也ですら見抜けない嘘になってしまう可能性だってある。
臨也は情報屋と言う仕事をしながらも、愛子の事を一番に信用し、彼女の言葉ならば何でも信じてしまうような人間だ。
確かに疑う事だってあるかもしれないが、それは彼女が[嘘を吐いている]という動きをするからであり、もし平然と嘘を吐き出し、
ニコニコした顔でいつもの日常に戻ってしまえば、真実は誰にも分からなくなってしまう。
―――信用した人間が一番怖いのよね、こういう場合。
彼女の過去があるので嘘は吐かない、嘘を吐いても分かりやすい―――長年、愛子を見てきた臨也だからこそ、
こういう時騙されてしまい、お互いにニコニコしながら話をする事ができてしまう。
―――とりあえず、様子は見させてもらおうかしら。
―――材料が誰かの盗撮じゃ、本当に浮気かどうかも分からないわ。
―――――――……
数日後
波江視点
「…………」
「あら、また何か見つかったの?」
「……まあね。ほら、見てよ。楽しそうにクリスマスの飾りなんて見てるんだよ?俺に何も言わずに買うなんて酷いと思わない?」
「そうかしら。お金を渡してるなら彼女が何を買おうと不思議じゃないと思うわ」
あれから特に動きはなく、彼女も臨也との生活を続けていたのだが、今日もどこかへ行ったらしく、まだ昼を過ぎたぐらいの時間帯だ。