折原家2
□初心忘れるべからず
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<初心忘れるべからず>
新宿 某マンション
波江視点
「…………」
「…………」
「…………」
「……その鬱陶しい雰囲気、止めてくれない?不愉快だわ」
「鬱陶しいって酷いなぁ。俺はこれでもいつも通りだよ?」
お昼時。
そろそろ上司の妻が昼ご飯でも用意するであろう時間帯なのだが、今日は夕方まで帰ってこないらしく、昼ご飯は彼女が朝に作っておいた作り置きらしい。
それが気に食わないのか、それとも別に理由があるのか解らないが上司は頬杖を付き、パソコンの画面を見つめながら指でコンコン、と叩き続けている。
それだけならば大して気にならないのだが、段々と溜息やら足を動かしたりと忙しなく、集中しようとしては段々と眉を顰め、次第に机を指で叩く回数が増えてきていた。
―――大方、愛子の事でしょうけど。
不機嫌になる上司の理由は妻の行動だったり、言葉だったりであり、もう半分は敗北した筈の天敵に対するものであった。
だが、最近は天敵である平和島静雄も大した動きも無く、昨日も命がけの追いかけっこをしていた、なんて噂で聞いているのでこのイライラの原因は妻の行動だろう。
もし天敵ならば、隠しもせず私や彼女にネチネチと愚痴を零し、自分がすっきりするまで平和島静雄に対する言葉を吐き出し続けているであろう。
それに彼女だって一日中、旦那の顔を見ている程暇な人間関係を築いてはいないだろうし、何だかんだでこのウザい上司―――折原臨也のもとにいる事で心配をされる事が多い。
本人はあまり気にしていないようで、[臨也だから]と言うが、臨也の事を表面しか見ていない人間からしてみたら、どういう生活をしているのかと不安になるのだろう。
―――本当、面倒な奴ね。
「何があったのか興味もないけど、仕事中ぐらい仕事に集中してくれないかしら」
「酷いなぁ、波江さんは。少しぐらい理由について聞いてくれてもいいんじゃないの?」
「その役目は愛子でしょう?私は私の仕事をするまでよ」
「……その愛子に言えない事だ、って言ったら君はどうする?」
イライラを募らせているのか、足を動かし、机をコツコツと叩き続けている為、溜息を吐き出しながらハッキリと言うとこちらが不機嫌だと気付いたらしく、
いつもの[情報屋としての]爽やかな笑顔を見せながら口を開く為、やっぱりそうか、と心で呟きつつ、
[どういう事?]と問いかけると、待ってましたとばかりに立ち上がって私の方へとやってくる。
「これ、愛子に似てると思わない?」
「……そうかしら。そんなに似てるとは思えないけど」
何をするのかと思えば、携帯を操作し、そのまま何かの写真を目の前に突き付ける臨也。
写真には盗撮と思われる、目線の合ってない男女が写っており、この後手でも繋いで帰りました、と思われても仕方ないほどの仲の良さを写真の中で発揮していた。
確かに顔や体型、髪型などは彼女に似ているが、あの臨也馬鹿と言っても過言ではない愛子が他の異性と仲良く喋っているだろうか。
何があっても、どんな人間であっても臨也以外は目に入らない、とばかりの彼女が―――浮気するだろうか。
―――……ないわね。
「何人かが彼女を見た、って言ってるんだよ。ケーキ屋に入ってケーキを何個か買った、って話もあるし……気にならない?」
「聞けばいいじゃない。貴方なら簡単に聞けるんじゃないの?」
人の心を引っ掻き回すのが得意なこの男ならば、口から生まれたと言っても過言ではないこの男なら、
相手に真実を口にさせる事なんて簡単だとは思うのだが、[浮気だったらどうしたらいいかな]と弱気な発言をするので思わず眉を顰める。