折原家2
□がんばるもんっ
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なのでハッキリと母親の不調を告げると心配そうな顔をしながらも大きく返事をして、[あさごはん、どうするのー?]と重要な事を口する。
いつもなら一緒に下りてきて彼女がご飯を作り、それまでの間3人でテレビを見たり、学校に行く準備をしたり、
仕事をしたりとそれぞれの事をしているのだが、一番重要な[料理を作ってくれる相手]がいない為、自分達でどうにかしなければならない。
―――愛子には色々と迷惑かけたし、俺が作るかな。
一昨日よりは良くなったと言っても、自分で熱があるのが解るぐらいなので敏感な二人も気付いているらしく、[とーと、いいの?][ねてていいよー?]と気遣う言葉をかけてくれた。
もし何も言われず、[早く朝ご飯作れ]と言われたらどうしようかと思ったが、流石は俺と彼女の子供だと心の中で称賛しつつ、
台所に立ったのはいいのだが、起きた時からついて回っている目眩が長時間起きている事によって悪化し、足元がふらつき、思わず流し台に手を付いて息を整えた。
「とーと、だいじょうぶー?」
「食パン、やいて食べるよー?」
「……悪いね。そうしてくれるかな」
それでも何とか立ち上がって料理を進めていたのだが、自分が食べるわけでもないのに見ているだけで気持ち悪さが増幅し、
思わず口を押えながら収まるのを待っていると心配そうな顔をしながらこちらを見つめている双子の顔があった。
このまま作業を続けていたらどこかで吐いてしまいそうなので諦めて火を消し、
作っていた料理とは言えないものを全部捨ててフライパンなどは後で秘書に洗わせようと流し台に入れ、
覚束ない足取りでソファまで行き、そのまま寝転び、片手で顔を隠すように横になった。
「とーと、おねつまだ高いねー」
「ちゃんとおくすりのまなきゃダメ、ってママも言ってたよー?」
「ちゃんと飲んでるさ。……あの薬が効かないだけだよ」
買って来て貰った市販の薬をきちんと書いてある通りに飲んでいる筈なのに、
今日になってもまだこんな状態のままだという事に落胆しつつ、またあのヤブ医者に連絡しなければならないのかと思うと溜息が漏れてしまう。
薬はよく効くと思うし、手術も上手いし、医者としてそれなりに信用もしている。
だが、相手があまり体調が良くない時に喋りたい相手ではなく、どちらかと言えば関わりたくないぐらいなのだが、
いつまでもこんな風に寝込んでいるわけにもいかないし、彼女も調子が良い方ではないので秘書である波江さんに連絡するついでのように闇医者である―――岸谷新羅に連絡を入れた。
<やあやあ、君か。どうしたの?こんな朝から。流石にこんな時間から静雄と喧嘩したとか誰かに刺されたとか言われても、
自業自得って言って電話を切るつもりだけど……別の用件なら聞いてあげなくもないよ>
「…………」
<あれ、臨也?いつもうるさいぐらいの君が黙ってるなんて珍しいねぇ。もしかして愛子ちゃんかな、それとも子供達が間違えて電話しちゃったかな>
「……お前はいつも通りだな、って思っただけだよ。ねえ、お願いしたい事があるんだけど」
<何、君風邪引いたの?鼻声だけど……子供達が生まれるまでこういう電話は殆どなかったのにやっぱり父親が外から風邪を持ってくる、っていうのは本当なんだねぇ>
「……こっちだって引きたくて引いてるわけじゃないし、風邪を引いてるって解っても声のトーンは変わらないんだな」
<もしかして[風邪引いたの?大丈夫かい?薬とかきちんと飲んでるの?熱は?]とか聞いて欲しかったのかな>
「……。……今日は君とそんな話をする為に電話をしたんじゃないんだ。
……愛子が風邪引いてさ、俺もあまりいいとは言えないし、市販の薬もあまり効かないから薬だけでいいから持って来てくれない?」
ペラペラとよく喋る相手に自分の事を棚に上げながらうんざりしつつ、
本題を切り出せば、[夫婦揃って風邪を引くなんて本当に君達って仲良いよね]と笑っている声が電話越しから聞こえてくる。