折原家2
□新しい事
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『……これじゃあ臨也の思うツボだよ……』
「?君は何の話をしてるんだい?俺にも分かるように話してくれてくれるかな」
『……怒ったりしない?笑ったりしない?……呆れたりしない?』
「?どういう事?怒るも笑うも呆れるのも話を聞いてみないと解らないじゃないか。……もしかして君は俺がエスパーか何か力を持ってるとか思ってたりするのかな。
それはないから。俺は人間だよ。紛れもなく、君と同じ生き物だ。力があるって言っても長い間人間観察をしてるから何となく君が考えてる事が分かるだけで、
心っていう不可思議な場所で何を思っていようと俺には分からないんだよ。話してくれない?それによって対応を決めるからさ」
私の性格を知っていて、自分の[信用]という重さを見せて――[信用]と言えば私の心が揺らぐ事を知っている。
だからこそ彼はそんな言葉を使い、全く関係無いような話をしていても目的は一つなのだ。もっと嘘が上手かったらこんな事を考えなくても済んだかもしれないが、
臨也はこんな私がいいと言ってくれるので、深呼吸し、あらかじめ問いかければ、突然話が戻るので何の話をしているのか解っていないらしい。
―――演技なのか本当なのか分からなくなる時があるよ……。
『……。……さっきさ、私、思い出し笑いしてただけ、って言ったじゃん?それで臨也は[その言葉を信じる]って言ってくれたでしょ。
……。……本当は、臨也がぎっくり腰になる姿を考えて笑ってた……って言ったら私の事、嫌になる?』
「…………」
『あ、あんまりさ、こういうのって言わない方がいいかな、って思うんだけど……臨也がどうしても私が笑ってた理由について知りたいみたいだったから……その……ね?』
何を言っていいのか、というか説明に迷う。
数秒や数分で話が戻るなら[ああ、あの事ね]と思い出す事もできるが、かなり経ってから話が戻ってきたのでもしかしたら忘れているかもしれない、
と考えて説明しながら話をしたのだが、彼は何を言っていいのか解らないのか、黙って私の話を聞いていた。
「……大体の事は解ったよ。俺もさ、好奇心のつもりだったんだよね。君は俺を見て何を考えてるのかな、とか何を思ってるのかな、って。
考えれば考えるだけ答えが欲しくなるだろう?俺の考えは本当に合っていたのか、ってさ。だから聞いたんだよ。
けど、君が思い出し笑いをしてただけ、って言うから、それで納得してたつもりだったんだけど……
まさか俺のぎっくり腰の姿を考えてたなんて想像してなかったよ。本当に君って面白いよねぇ」
『……私はまさか、そんな事を言われるとは思わなかったよ……』
怒る、とまではいかないが呆れられ、自分の信用を踏みにじった、なんて言われても言い訳もできないのだが、
彼は[ぎっくり腰か、そのうちなるかもね]なんて言いながら笑っており、全く気にしていない。
こんな事ならば軽い調子でいつもの冗談のつもりで、話をした方がよっぽど楽だったかもしれない。
安堵の息を漏らせば、[そんなに緊張してたの?]と軽い調子で問いかけてくるので私も軽い調子で返事を返せば、ケラケラ笑って楽しそうだ。
『笑わないでよっ、だってぎっくり腰の姿を想像して笑ってたんだよっ!?何か申し訳ない、っていうか失礼っていうか……
妻が辛そうな旦那を見て笑ってる、って夫婦としてどうなのかな、とかさっ』
「本当、俺は君を選んで良かったってつくづく思うよ。俺達がどこにでもいるような夫婦だと本気で思ってる?
十年以上も一緒に居て、喧嘩らしい喧嘩も、離婚の危機、なんて事もないまま過ごしてるんだよ?今じゃかなり少ないんじゃないかな」
『そ、そうなのかな……』
私はあまり、一般的な夫婦というものがどういうものなのか分からず、見本としているのは彼の両親なのだが、その二人も仲良しだと思う。