折原家2
□新しい事
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彼はいつも冷静で、ニコニコしながら話をする。
それによって私は怒ったり恥ずかしがったり。様々な感情を表に出すようになって―――昔はあまり信用できない部分もあり、こうやって冗談を言い合う、
というのか本気か嘘か分からないやり取りをしながら楽しむ事なんてできなかったが、
歳を取り、そして長く一緒に居る事によって[冗談で済ませられる話]と[冗談では済ませられない話]などが分かるようになってきた。
それでも彼の中の[冗談では済ませられない話]というのは私にとっても冗談では済ませられなくなってしまうので口にはしないし、
心が広いのか狭いのか、大体の事は笑って片付けてしまうのでそう言った雰囲気には滅多にならないが。
『違いますからっ!』
「じゃあ何?君はどうしてそんなにニヤニヤ、ニコニコしてたんだい?理由がなければそんな顔はしないだろう?」
『いいでしょ、別に……!私だって時々思い出し笑いとか色々しちゃうよっ』
「……へえ?」
大きく否定しても彼は私の思考、というものに興味津々なようでどうしてでもこちらの考えが知りたいようで子供のように[どうして?どうして?]と言わんばかりに問いかけてくるが、
恥ずかしいし、言葉で言われると考えてしまった事に対する罪悪感に囚われそうなので口の前に両手で×を作り、[言わない]という気持ちを表せば、ちょっとだけ残念そうだ。
「いつもなら観念して話してくれるのに。そんなに俺に言えない事なのかな」
『っ、ど、どうしてそんな……本当に酷いよね、臨也って』
私が何を考えていようと彼には関係無い、というか自由だと思うのだが臨也はそれが知りたいらしく、あの手この手を使って聞き出そうとしてくる。
押してダメなら引いてみろ、という言葉があるように先程は子供のように問いかけてきたかと思えば、次は大人の臨也、
というのか私があまりしてほしくない悲しんだ顔をするので思わず身体を後ろに下げ、今にでも言ってしまいそうだ。
―――何でこうなったんだろう……。
―――別に私は臨也とこんな事をする為に隠し事をしてるわけじゃないのに。
「酷いのは君じゃないか。俺はただ、君が考えてる事を、君がどうしてそんな顔をしながら俺を見てたのか気になったから聞いただけなのに」
『わっ、私の自由でしょっ、さっきも言ったじゃん!思い出し笑いしてただけだって』
「……本当にそうなの?君がそこまで言うって事なら俺はその言葉を信じるよ。その言葉に嘘偽りがないのなら、ね?」
『ありませんっ』
―――……隠しても言っても罪悪感っ!
彼の[その言葉を信じる]という言葉を聞いて、胸に刺さる思いになった。
臨也はこんな私の事を信用してくれている。傍に置いてくれている。隣で寝かせてくれている。
警戒心の強い猫のようにあまり誰にも弱みなどを見せない彼が、こんな一般人でしかない私に笑いかけ、信じてくれる。
臨也の言う[信用]という言葉の重みを知っているからこそ、
そう言われると嘘を吐いてしまった事に対する罪悪感が後から後から湧き上がり、言っておいた方が良かったかもしれない、なんて思ってしまう。
―――何かもう、色々辛いっ!
悪い事はしていない。
喧嘩もしていない。
彼も笑いながら先程の事なんてなかったかのように[新学期、ってワクワクするよね]なんて話をしており、全く気にしていない様子だ。
それなのに―――私の心は晴れなくて、話をしていてもモヤモヤして、なかなか話に集中できない。
「――――――……なんだけど……って、聞いてる?」
『っ、聞いてませんでしたぁあっ!』
「?どうしたの、突然」
隠せる自信も、このまま無かった事にする事もできない馬鹿な私は正直に話して彼の信用を少しでも壊さないようにしよう、
という思いで声を上げれば、少し驚いたのかこちらを見ながら問い掛けてきた。