折原家2
□夏休み♪
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「うみっ!プールっ!いっぱいおよぎたいっ!」
「貝がらひろったりー、きれいな石さがすのっ」
「……どれも暑そうだねぇ。出掛けるのなんていつでもできるじゃないか。俺の仕事も早く終わった事だし、ママも友達と遊びに行くのもまだ先だしさ」
「じゃあっ、パパはいつっ、うみに行ってくれるのっ!?」
「ずーーーっと、とーと、あついからやだって言うでしょっ!」
「……海なんて泳ぐ以外ならいつでも行けるじゃないか。どうしてそう泳ぎたがるのかなぁ」
海に行くのは頑固拒否らしく、子供達の言い分に納得できない、と言わんばかりの臨也。
子供達も負けじと父親に刃向うが、結局いつまで経っても決まらずにお昼となってしまい、窓側に近付けば、蝉の声が聞こえてくる程の暑さが窓を一枚超えた外の世界には広がっている。
確かに臨也が言うように、わざわざ暑いと分かっているのに外に出掛けるのは嫌だな、と思ってしまうのは無理はないかもしれない。
それに本当に海やプールに行くにしても、水着やタオルなど何の準備もしていないので流石に今日行く、というのは止めて欲しい、というのが本音だ。
―――試着もしておきたいし……。
少し前に買った、あまり露出の無い水着。
殆ど着る機会もなく、もしかしたらもう二度と切る事もないかもしれないと思っていた水着を、
もしかしたらまた着れるかもしれないと思うと少し嬉しくなるが、臨也のあの様子からでは海やプールに行くのはもうないかもしれない。
前に着た時は偶然が重なり、仕方ないから行こう、という感じだったのだが、自発的に何も得もしない所には臨也は行きたくないらしい。
何かもっときっかけがあれば、もしくはプールや海に行きたがるような事があれば人間が大好きな臨也の事だ、行こうと言ってくれるかもしれない。
そう思い、お昼を食べた後に携帯で色々と海やプールについて調べるが、何か特徴的な事があるわけでもなく、
臨也に[全長10mもあるスライダーがあるからプールに行こう]とか言っても行かないだろう。
―――結局暑いのが嫌だから出たくないんだもんなぁ……。
根本的な問題はそこであり、まず彼を外に出す為の何かがなければ出掛ける事なんて夢のまた夢だ。確かに何かがあれば、暑さなんて気にせずに出てくれるかもしれないが、
調べても特に目新しいものはなく、あったとしてもラジオの生収録ぐらいだろう。
臨也が喜んでラジオの生収録に行くとは思えないし、彼がラジオを聞いている姿なんて見た事が無いので話をしても興味すらもたないかもしれない。
「プールは―?ねー、パパー、プールっ、うみでもいいからー、ねー?」
「お家にいてもつまんないよぉ!おでかけしよー、とーとー!」
「……少しは本を読んで国語に役立てたらどうかな。ああ、図書館なら連れて行ってあげてもいいよ」
「としょかんー!?ちーがーうーのー!」
「ぼくたちはうみとかプールがいいのっ!」
「ほら、そのうち読書感想文とか宿題に出るようになるんじゃない?今の子供達の夏休みの宿題に読書感想文が出るかどうかは知らないけどさ」
「おもしろかったですってかくからいいのっ!」
「おもしろくなかったら、おもしろくなかったですってかくからいいのっ!」
「……そんなシズちゃんみたいな事言わないでよ。もう少し考えた方がいいんじゃない?」
―――どっちも折れないからなぁ……。
今回の事に関しては彼は多分、絶対と言う程折れないだろう。
子供達も多分それは解っているとは思うのだが、いつも[仕方ないな]と言ってくれる何だかんだで優しい父親に期待し、海やプールに行きたい事を永遠と彼の近くで話し続けている。