折原家2
□夏休み♪
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<夏休み♪>
新宿 某マンション
愛子視点
「なつやすみーっ!いーっぱい、いーーーっぱいあそぶんだよねー!パパ、そう言ったもんねー!」
「うそついちゃダメだよー!?どこに行くのっ!?かいすいよく!?うみ、行きたいっ!プールでもいいよ!」
「……。……外はあんなに暑いのに元気だね、君達は」
子供達にとっては楽しみにしていた夏休みがやってきた。
私達にとっては、というか特に旦那の方からしてみたら二人の時間が減るので喜ばしい事ではないようだが、
私からしたら朝から晩まで子供達と笑ったり、喧嘩したり、一緒になって楽しむ事ができるので毎日でも夏休みであってほしいぐらいだ。
二人は夏休み前の事を思い出しているのか、既に何をして遊ぶのか考えているらしく、行きたい所を包み隠さずに父親にぶつけている。
だが、彼の方は晴天の今日、この涼しいマンションから出るのは嫌らしく、どうやって子供達の意識を逸らそうか考えているように見えた。
―――暑いの苦手だもんねー、臨也。
毎年毎年、[暑いのは苦手だ][暑いのに外に出たくない]と言い続けているので子供達も分かっている事だとは思うのだが、
彼の言い分なんて知らないかのように[かいすいよくーっ]と腕を引っ張って無理矢理にでも連れ出そうとする気満々だ。
「どうしてこんな暑いのに外に出て出掛けなきゃいけないんだい?移動するまでに汗掻くし、海に行ったらベタベタして気持ち悪いじゃないか」
「でもでもーっ、うみ、きもちいいよって言ってたよー?」
「フランクフルト、おいしいって!ねー、とーとー、うみ行こー?」
「……そうだな、もっと別の場所なら考えなくもないよ。お前達が考えられるのなら、だけどさ」
「べつのばしょー?うーん、プール?」
「プール、まさおみも行くって言ってたよ!みんなであそべるよっ」
「……海もプールも根本的なものは同じじゃないか。塩分が含まれてるか含まれてないか、人工的か人工的じゃないか、それだけだろう?却下」
「むずかしいこと言ってー、パパ、およげないんでしょー?」
「そうなんだー、とーと、およげないからうみとかプール、行きたくないんだねー」
「お前達の結論ってどうしてそう、極端なのかな。俺がいつ、泳げないなんて言ったの?」
プールや海を否定する父親に子供達は僅かに馬鹿にするような言葉を吐き出せば、分かっていてもあまり笑って許せる事ではないらしく、
反論すれば[なら、うみ行こー]という最初の問題へと戻ってくる。そんなイタチごっこが数回続いた後、
珍しく子供達が[じゃあどこがいいのー?]と言う問いかけに待ってました、とばかりに笑顔になり―――
「俺はここに行きたいんだけど、名前で言うのもあれだから、住所で言うよ。東京都新宿区―――」
ペラペラと住所を吐き出していく彼に子供達はクエッションマークを浮かべていたが、私はどこかで聞いた事、
というか見た事があるような住所だと思い、旦那の言葉を思い出し、一つの住所を導き出した。
『それここじゃんっ!』
「……君にもバレないと思ったんだけどなぁ。流石に長く住んでればバレるか」
声を荒げてそう言うと本気でバレないと思っていたらしく、少し驚いた顔で呟く為、思わず[当たり前じゃん!?]と言うとケラケラととても楽しそうに笑っている。
「パパズルいっ!お家じゃないのっ、おでかけするの!パパ、ちゃんと言ったもんっ」
「おでかけするって言ったのに、うそつくのっ!?」
「言ってるだろう?外が暑いから出たくないってさ。もっと涼しい場所に行こうよ」
私達の言葉を聞いて、怒るようにそう言うが、父親―――折原臨也には通用せず、溜息を吐きながら別のお出掛け先を決めて欲しいらしい。